猛牛のささやきBACK NUMBER
都立の星・鈴木優が迎えた開花の時。
23歳に響いたベテラン捕手の言葉。
posted2020/07/08 11:30
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
7月1日、念願のプロ初勝利を飾ったオリックスの右腕・鈴木優は、ゆっくりと、喜びを噛みしめながら言った。
「6年かかってしまったんですけど、やっと、1勝できてほんとに嬉しいです」
昨年の覇者・埼玉西武の強力打線を、堂々のピッチングで封じた。
打者の手元で小さく変化するツーシームを軸に、140キロ台中盤のストレート、スライダー、フォークを駆使して相手を惑わす。西武の4番・山川穂高は、大きく縦に変化するスライダーにバットが空を切り、目を丸くした。
4回の先頭・森友哉の打席の途中で右手をつってベンチに下がるアクシデントがあったが、すぐにマウンドに戻ると、森、山川を連続三振に仕留めた。
「手をつってからは、僕自身あまり投球内容を覚えていない。集中できてたんですかね」と振り返った。
結果的に、5回無安打無失点7奪三振という圧巻の投球だった。6月26日に3イニングを投げてから中4日の登板だったため、5回でマウンドを降りたが、6回以降もリリーフ陣が完封リレーでつなぎ、6-0で勝利した。
スポーツ紙の一面に「都立の星」。
都立高校から高卒でプロ入りした選手としては史上初の勝利。「都立の星」・鈴木は、翌日、スポーツ紙(日刊スポーツ)の関東版の一面を飾った。オリックスの選手が一面を飾るのは数年に一度のレアケースだという。
しかも、鈴木がもたらしたこの勝利は、開幕から1勝9敗とどん底であえいでいたチームの連敗を7で止める貴重な白星だった。この試合以降のオリックスは、4勝1敗1分と好調に転じている。
しかし鈴木は、試合後のヒーローインタビューでこう語った。
「僕は正直そんな、連敗止めてやろうっていう立場の選手でもないんで、もう開き直って、楽しんで投げようと思いました」