セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
真夏のセリエA挑む苦労人に直撃。
目標への原動力は憧れのあの選手。
posted2020/06/13 11:30
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
Uniphoto Press
6月20日、3カ月半ぶりにセリエAが再開する。
再開決定の一報を聞いて真っ先に思い浮かんだのは、サッスオーロのフランチェスコ・カプートの悲痛な眼差しと、彼が掲げた一枚の白い紙片だ。
そこには、短いが明確なメッセージが書かれていた。
“ANDRA TUTTO BENE RESTATE A CASA.”
(きっとうまくいくから、頼むから、皆、家にいてくれ)
カプートの顔に満ちた悲壮感。
3月9日の夜、COVID-19の爆発的感染が始まっていたイタリアで、カプートはゴールの喜びと引き換えに、国民へ新型コロナウイルスへの籠城抗戦を訴えた。
TV中継カメラの前でメッセージを掲げる彼の姿は、コロナ禍に見舞われた今季セリエAのハイライトシーンの1つとして、長く記憶されるに違いない。
「あれは妻のアイデアだったんだ。この大変なときに何かできることはないかって」
セリエA再開を前に、プロビンチャーレのベテランFWの言葉に耳を傾けてみたい。
現時点における今季セリエA最後の試合は、3月9日にサッスオーロが3-0でブレシアを下した無観客カードだ。
それは、サッスオーロが本拠地を置くエミリア・ロマーニャ州を含む北部イタリアで、新型コロナウイルス感染症が急速に拡大していた頃のこと。マペイ・スタジアムは非常時の重苦しい緊張感に包まれていた。
前半45分、先制点をあげたカプートはベンチに駆け寄って、チームマネージャーから紙切れを受け取るや否やゴールを喜ぶことなど忘れ、中継カメラの前へ走った。
畳まれていた紙片を広げると、目に見えない未曾有の敵からの自己防衛と家族の結束をじっと訴えた。
そのとき伝えるべきことは、“家に留まれ。感染拡大を防げ”ということだけだった。使命感に突き動かされたカプートの顔は引きつり、悲壮感に満ちていた。