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ベッテル離脱でドイツF1界に翳り?
シューマッハーから続く栄光は……。
posted2020/05/27 11:00
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
シーズン開幕が延期されたままの状況が続く中、2020年のF1はコース上での戦いよりも先に、シート争いというコース外での戦いが勃発した。
最初にそのトリガーを引いたのは、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)だった。フェラーリはすでに昨年末、'22年まで契約があるシャルル・ルクレールに対して、さらに契約を2年延長して'24年までとしていた。ところが、契約が今年限りとなっていたベッテルに対しては、単年契約を提示。しかも、大幅な年俸ダウンが条件となっていた。
これはフェラーリのナンバー1ドライバーはもはやベッテルでないことを示しており、これまで4度チャンピオンに輝いた経験を持つベッテルにとって、屈辱的とも思える内容だった。
果たして、ベッテルはフェラーリからの提案を突っぱね、交渉は決裂。5月12日にフェラーリは「今シーズン限りでのベッテルの離脱」を発表することになった。
ベッテルに残された道は引退?
ベッテルが引き金を引き、'21年に向けたシート争いは急展開した。
2日後の14日、フェラーリがベッテルの後任としてマクラーレンのカルロス・サインツと契約したことを発表。さらにほぼ同じタイミングで、そのサインツが移籍して空くシートにルノーのダニエル・リカルドが座ることになったとマクラーレンが発表した。
5月22日の時点で、ベッテルが'21年にレースするF1のシートは決まっていない。'20年末に契約が切れるドライバーはベッテル以外にも19人中14人おり、ベッテルがフェラーリ以外のチームでF1を続ける道はまだ残っている。しかし、かつて4度も王者になっている誇り高き男が、トップ3(メルセデス、フェラーリ、レッドブル)以外の勝つチャンスがほとんどないチームに行くとは考えにくい。
またナンバー2待遇になってしまうならフェラーリでさえ良しとしなかったのに、7冠を目指すルイス・ハミルトンがいるメルセデスや、次代のチャンピオン候補であるマックス・フェルスタッペンがいるレッドブルに行くとも思えない。
もしそうなれば、ベッテルに残された道は引退しかない。
そして、それはベッテルひとりがF1から去るというのみにとどまらず、ドイツ・モータースポーツ崩壊の危機を意味する。というのも、'20年シーズンのF1にエントリーを予定している20人の中でドイツ人はベッテルだけとなっているからだ。