今こそモータースポーツBACK NUMBER
着実にステップアップした苦労人。
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byAFLO
posted2004/06/01 00:00
「マシンは完璧、作戦は大正解、ピットワークは抜群だった!」
感激をすぐには言葉に表せないと言いながらも、モナコのウィナーは快活・饒舌だった。
コクピットから出るやそのままノーズに乗って仁王立ちのガッツポーズ! 真っ先に駆けつけたボス=F・ブリアトーレに飛びつき、ノーズに貼られたルノー・マークにヘルメットを被ったままでキス。待って待って、待ちぬいた勝利のシャンペンをシェイクしまくった。
"勝てない男"ヤルノ・トゥルーリがついに勝った。F1にデビューしてから8年117戦目の勝利。しかも初ポールポジション+初優勝であり、これは54年の歴史を誇るF1グランプリの最長(遅)記録である。トゥルーリはこれまで予選2位は4回、決勝2位は1回、しかしポールポジションとも優勝とも無縁だった。それだけ長い間ポールポジションにも勝利にも遠ざかっていたのは、自分のキャリアとチームとの巡り合わせが悪かったこともあるが、トゥルーリ自身にも問題がなくはなかった。
一発は速いが、マシンやエンジンに負担をかけてしまうドライビング。加えてレースのどこかで途切れる集中力。前者はトゥルーリのスタイルの問題としても、後者はアスリートとしての体力不足が問題だった。彼の初表彰台は2003年のドイツだったが、激しい脱水症状に見舞われ、すぐには表彰台まで来られなかったほど。フレンチブルーのレーシングスーツが汗でどす黒く濡れ、眼は夜叉のように落ち窪んでいたものだ。
それが今年になってから目立たなくなったのは、マシンが急速に信頼性を増したことと無関係ではあるまい。開幕戦からモナコの前戦スペインまでのトゥルーリは7位→5位→4位→5位→3位と全戦完走し、入賞。レースをことごとく完遂することで、体力の問題をクリアして来たのだ。信頼性の高いマシンはドライバーに余計な負担を強いることがない。マシンの向上と、ドライバーの進化がうまくシンクロした結果が、今回の栄光につながったとみたい。そして遠かった初優勝のプレッシャーから開放されたトゥルーリが2勝目を挙げる日はそれほど遠くないと思いたい。
フレンチ・ブルーのレーシングスーツ。痩せぎすな身体とイタズラ小僧の雰囲気を残した面立ち。時にチョンマゲになったりする金髪。ちゃめっけタップリなトゥルーリが優勝カップを頭上高く掲げているそのシーンは、なぜかF1グランプリではなく、ジーロ・デ・イタリーかなんかの表彰式を観ているような気分にさせてくれた。