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松井秀喜の打球が失速するとは。
3Aでの一打、引退後に聞いたこと。
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph byYukihito Taguchi
posted2020/05/14 11:30
2012年5月17日、4打席目で中飛を打った瞬間の松井秀喜。この試合の約半年後、日米での偉大な球歴に終止符を打つ。
年末に引退決断した松井は……。
本来のオープン戦を経ておらず調整不足だったものの、故障者が続出したこともあり、5月末にメジャーへ復帰した。直後には、華々しく2本塁打を放ったものの、その後も本来のプレーができず、7月25日に戦力外通告を受けた。
同年12月27日。自宅のあるニューヨークで現役引退を発表。周囲には電撃的と映った一方で、松井自身のスッキリした表情が印象的だった。
「気持ちの整理は付けていました。戦力外になったということは、自分がチームのためになれない気持ちになった。やりたくても、力になれないのであれば、やっても仕方ない。シンプルに、そういう感じでした」
最高のレベルでプレーする選手に、自らの限界を察する瞬間が訪れるのは、おそらく松井に限ったことではない。巨人のエースとして活躍した江川卓は、1987年9月20日、広島小早川毅彦にこん身の速球を投げてサヨナラ弾を浴びた際、引退を決意したと言われる。
数年後、本人に聞いてみたこと。
江川の被弾や、松井の「もうひと伸びしなかった打球」を、言葉を選ばず、衰えと言ってしまえば、あまりにも非礼だろう。
ただ、これまでとは明らかに違う感覚、経験したことのない戸惑いと葛藤したことは、想像に難くない。
引退から数年が経過した際、松井に引退を覚悟した瞬間を尋ねた。
宙を見上げ、少しばかり考え込んだ松井は、あえて特定の場面を挙げることはしなかったものの、「そう言えば……」と、失速した中飛のショックを否定しなかった。
名選手が感じる幕引きへのきっかけ――。
プロ1号、現役最後となる日米通算507号以上に、松井引退が近付いている現実を受け入れざるを得なかった、あのひと振りは、今も忘れられない。(敬称略)