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松井秀喜の打球が失速するとは。
3Aでの一打、引退後に聞いたこと。
posted2020/05/14 11:30
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph by
Yukihito Taguchi
『Sports Graphic Number』創刊1000号を記念して、NumberWebでも「私にとっての1番」企画を掲載します。今回は長年にわたってNPB、メジャーリーグを追い、健筆をふるう四竈衛氏による2012年、「松井秀喜のセンターフライ」について。
その瞬間、何の確証がなくとも、これまでに感じたことのない、胸騒ぎにも近い感覚が脳裏をよぎるのを、かき消せなかった。それほど、ショッキングだった。
2012年5月17日。米ノースカロライナ州ダーラムで行われたマイナー3Aの公式戦「ダーラム・ブルズ対ポータケット・レッドソックス戦」でのことだった。
「4番DH」でスタメン出場していた松井秀喜の第4打席の初球。快音が耳に届いた瞬間、「お目覚めアーチ」「メジャー昇格弾」の大見出しが目の前に浮かび、今日の原稿は決まったと覚悟した。
星稜高時代の1992年、選抜甲子園での2打席連続アーチ以来、巨人入り後のプロ1号をはじめ数百本の本塁打を目の当たりにしてきた。
打った瞬間に分かる松井のアーチ。
松井のアーチと言えば、打った瞬間に分かる当たりが大半。多少詰まった当たりがサク越えすることはあっても、その反対は皆無だった。
スイングのタイミング、打球角度、ユニホームのシルエットに漂う余韻……。頭に焼き付いている残像通りであれば、そのひと振りも、すべてが完璧なアーチの条件を満たしていたはずだった。
ところが、結果は違った。
数秒後、フェンス直前で失速した打球は、中堅手のグラブに収まっていた。それまでゆっくりとした足取りで一塁ベースを回っていた松井は、大げさに天を仰ぐことこそしなかった。ただ、珍しく悔しそうに唇をかみ締めた。そんな松井の表情に、心がざわついた。