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槙野智章にとっての「運命の一発」。
宇賀神の祝福と「浦和の漢」の歌詞。
posted2020/04/16 11:50
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
J.LEAGUE
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、4月5日から浦和レッズは活動を休止。現在は選手全員が自宅で外出を自粛している。
以前ならば練習場からクラブハウスに引き上げて来るときに選手をつかまえ、いつでも話を聞けたが、いまはそれも不可能な状況。このタイミングでのお願いをためらいながら、クラブの広報に相談すると、ビデオ会議システムでの取材を提案してもらった。
4月のある日、自宅で恐る恐るセッティングし、取材開始の時間を待っていた。パソコンの内蔵カメラを調整しているとき、小さな画面越しに明るい笑みを浮かべた槙野智章の顔が現れた。親しみやすい口調は、いつもと変わらない。
「あ、つながった。いけた、いけたよ。こんちは! きょうはよろしくお願いします」
愛犬のぱんちゃんが隣にちょこんと座り、槙野の唇をぺろぺろと舐めている。平和な時間である。のんびりした空気が流れるなか、かわいいペットは少しの間、フレームアウトしてもらい、本題である“運命のゴール”について聞いた。
「この企画を広報から聞いたとき、僕にもってこいのテーマだと思いました。いろいろなゴールを決めてきたけど、これしかないなって」
2012年12月、あのFK。
2012年12月1日、最終節の名古屋グランパス戦で決めた直接FKだ。
「このゴールの背景には、ストーリーがたくさん詰まっています」
あの日、あのときの記憶は、鮮明に思い出すことができる。
ACL出場権を懸けた一戦で、本拠地の埼玉スタジアムには5万人を超えるファン・サポーターが詰めかけていた。1-0で迎えた59分、中央右寄り付近でFKのチャンスを得る。ゴールまでの距離は約30m。相手の壁は左から185cmを超えるダニルソン、ダニエル、増川隆洋らが並び、山脈のようにそびえ立っていた。
ゴールマウスを守るのは、日本代表の楢崎正剛。ボールをセットする場所には、右足のマルシオ・リシャルデス、左足の柏木陽介という名キッカーがいた。