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あのパッキャオが失神した衝撃KO。
2010年代最高のファイトと疑惑。
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byAFLO
posted2020/04/09 19:00
4度目の対戦となった2012年12月。マルケスの完璧なカウンターを浴びたパッキャオは前のめりに倒れた。
最大のライバルはマルケスだった?
スキル、迫力、緊張感がすべて備わった素晴らしい内容のファイトであり、特に3~6回のハイレベルな攻防は再見の価値がある。パッキャオのビッグファイトといえば2015年に催されたフロイド・メイウェザー(アメリカ)との「世紀の一戦」を思い出す人が多いのだろうが、最大のライバルはメイウェザーではなく、マルケスの方だったに違いない。特にこの第4戦はインパクト、ドラマ性、フィニッシュの衝撃度でも最高級。昨年末には米国内の多くの媒体から「2010年代最高のファイト」に選出されたことが示す通り、間違いなく後世に語り継がれる一戦だったのだ。
ただ、実は個人的には、この一戦を「The fight of the decade(今世紀最高のファイト)」に選ぶのには少々抵抗を感じているのも事実ではある。あの日のマルケスにはPED(禁止されているパフォーマンス向上薬)使用疑惑がかかっており、私の心の中でもいまだにその疑いが晴れていないからだ。
39歳にしてその身体が破格なまでに大きくなったことに関しては、戦前から疑問の声が挙がっていた。試合が始まってからも、完璧なタイミングだった最後のKOパンチはともかく、豪腕でなぎ倒すように奪った第3ラウンドのダウンはマルケスがこれまで見せたことのない類いのものだった。
「メキシコ薬局の勝利だ」
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米国内でも試合後に多くのメディアがこの疑惑を取り上げ、老舗のニューヨーク・タイムズまでもが「KO決着にも関わらず疑問点を残した」というタイトルの記事を掲載していた。
今後も真偽が明かされることはないだろうが、かつて禁止薬物の売人だったアンヘル・ギジェルモ・エレディアがマルケス陣営に迎えられていたこと、試合後に同じくメキシコの英雄だったエリック・モラレスが「メキシコ薬局の勝利だ」とツイートしたこと(すぐに消去)、ステロイド使用者のサインとされるニキビが背中に出ていたことなどから、メディア関係者の中にも「この日のマルケスはクロだった」と考えているものが少なくない。私も試合途中からマルケスに不自然さを感じ、それもあってパッキャオが失神している間には胸騒ぎを覚えたのだった。
ただ……マルケスは規定の薬物検査をパスしており、薬物使用の確たる証拠はないことはここで付け加えておきたい。
そして、すべての疑惑を考慮した上でも、あの試合が近年の米リングでも最大級に思い出深いものであったことは否定できない。