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困難に打ち勝つ羽生結弦の向上心。
自身の理想像への挑戦は来季へ。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2020/04/03 15:00
四大陸選手権前のプログラム変更に衝撃が走るも見事優勝。男子としては史上初となるスーパースラムを達成した。
追われる立場か、追う立場か。
向上心――どこまでも高みを目指す姿勢を、羽生はこれまでずっと示し続けてきたが、今シーズン、象徴的な言葉があった。昨年11月、NHK杯で優勝したあとの取材での言葉だ。今は追う立場、追われる立場、そのどちらであると捉えているのか、そうしたニュアンスの質問に答えた。
「まあでも、常に追ってます。今はたぶん全世界がスケートカナダの演技ですかね。スケートカナダの羽生結弦の演技をたぶん追ってくると思うんですよ、ただ、それは僕自身も一緒で。僕もあの演技を超えたいし、あの点数を超えたいってすごく思うので。常に追っているんだなという風に思いますし」
「自分の根源にあるものはたぶん……」
さらに、自身が考える羽生結弦は、どんな存在、どんな選手なのか、という質問にはこう答えた。
「あのー……。僕の中で9歳の自分とずっと戦っているんですよ。9歳で初めて全日本ノービスを優勝したときの、もうなんか自信しかない、自信の塊みたいな自分がいて。そのときの自分にずっとなんか、『お前、まだまだだろっ』って言われているような感じがしてるんですよね。
だから、ほんとうはそこまで行きたいんですよね。あの頃の、自信の塊みたいな。何だろう、だんだん大人になっていくにつれて、いろんな言葉とか、いろんなものごととか、社会のルールみたいなものに、やっぱり縛られていくじゃないですか。それに、だんだん自分たちが意味づけをしていく。子どもの頃って、そういうのは何もなくて、ただやりたいことをやっていて、ただ自分自身が心から好きだなって思うことだったり、何だろう、自信があるなと思うことに関して、すごく素直でいられたと思うんですよね。
自分の根源にあるものはたぶん、そういう、なんか……、何だろう、本当に自分の心からやりたいもの、心から自信を持てるものというものをスケートで出したいんですよ。たぶんそれが、たぶんいちばん強いときの自分なんですよ。それになりたいって思って。その小さい頃の、何でもできると思っていた頃の自分が融合したら、最終的に羽生結弦だって言えるのかなっていう風に思ってます。それがたぶん理想像なんです」
長くなったが、極力そのまま、言葉をつづった。