プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
コロナ戦時下での異様なにらみ合い。
無観客プロレスのこれからを考える。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/03/31 20:00
実に30分以上も続いた藤田和之と潮崎豪のにらみ合い。日本プロレス史に残るような、奇妙な試合となった。
藤田はラリアットから逃げなかった。
藤田が力任せに攻めて、王者の潮崎が耐える展開だった。もちろん、潮崎が跳ねのけなければ、3カウントが入ってしまう。
40分が過ぎて、道場でのスパーリングのような展開は様相を変える。藤田は場外戦で潮崎を捕まえると無観客の後楽園ホールを引きずり回した。
エレベーター前まで行き、5階のエレベーターのボタンを押した。そのドアはうまく開かなかったが、午前中から雪の舞っていた外まで連れ出そうともした。
さらに階段を上がって6階まで行き、藤田はバルコニーでも潮崎を突き落としかねない勢いだった。
7分にも及んだ場外戦から戦いは再びリング内に戻った。
藤田の逆エビ固め。潮崎のブレーンバスター、ショルダーアタック。藤田のスリーパーホールド。チョップと張り手の応酬。藤田のパワーボムと容赦ない顔面蹴り。潮崎のラリアット。
60分の時間切れも意識した57分47秒、潮崎が藤田を10発目のラリアットで押さえこんだ。
藤田はラリアットから逃げなかった。
「みんながいるからノアだと」
「アイ アム ノア」とテレビの向こうのファンに叫んだ潮崎は「負けられなかった。負けるわけにはいかなかった」と口にした。
「今まで味わったことのない緊張感ある試合。藤田和之は藤田和之。相手の威圧感に耐えるしかなかった。体力も奪い取られた。お客さんがひとりもいない状況で、みんなが画面の向こうで見てくれていると思ったら負けられないでしょう。防衛戦以上に得るものが多い試合だった。これがノアを背負い、ノアを守る試合。
でも見に来てくれるお客さんがいないとね。みんながいるからノアだと、それを実感しましたよ。気づくことができてよかった。違和感だらけの試合でした。これはみんな感じたことだと思う。今はこの状況を打破してみんなの前で試合がしたい」