セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
“カテナッチョ”は死語にならない。
吉田と冨安がイタリアにいる価値。
posted2020/03/20 20:00
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
AFLO
「2019-20年シーズンのセリエA第26節」は、日本サッカー史に記しておく価値がある。
日本代表の最終ラインを守るボローニャDF冨安健洋とサンプドリアDF吉田麻也が、W杯優勝4度を誇る守備の国イタリアで初めて揃って先発出場したからだ。彼らは入団に際し、守備の伝統国へ挑戦する興奮と意気込みを異口同音に述べている。
冨安や吉田だけでなく世界中のDFにとって、伝統の堅守“カテナッチョ”を誇る、地中海の長靴の国は特別な場所だ。
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「カテナッチョ」の起源は、意外にもスイスにある。
オーストリア人監督カール・ラパンの率いた1932年のセルヴェットFC(スイス)がその端緒だ。
ラパンは最終ラインに3人のセンターバックと2人のサイドバックを並べた。革新的だったのは、つねに守備の数的優位を作り出すために、マークに特化し自由に動けるストッパー(=リベロ)を1人追加したことだ。
GKとCBの間で左右に動きながら危険の芽を次々に摘み取るリベロの動きは、城門を閉じる閂(かんぬき)に喩えられた。ラパン率いるスイス代表が、'38年フランスW杯でインパクトを残すと、斬新な新戦術はイタリア半島にも瞬く間に伝わった。
2人の“魔術師”が成し遂げた偉業。
閂を意味するイタリア語の「カテナッチョ」は、リベロを備えた堅固な守備戦術そのものを指すようになり、ネレオ・ロッコとエレニオ・エレーラ、2人の名将が正確なカバーリングによる理路整然とした守備と効果的なカウンター攻撃を洗練させ、完成の域に導いた。
ミランの指揮官ロッコはUEFAチャンピオンズ・カップで2度('63年、'69年)、現在のクラブW杯の前身にあたるインターコンチネンタル杯('69年)でも優勝。バルセロナを率いた後、インテル指揮官に就いたエレーラは、チャンピオンズ・カップとインターコンチネンタル杯を2連覇('64年、'65年)する偉業を成し遂げた。
ともに“魔術師”と呼ばれた2人が'60年代に挙げた大戦果によって、カテナッチョはサッカー強国イタリアの象徴となったのだ。