炎の一筆入魂BACK NUMBER
佐々岡カープの雰囲気は“快晴”。
嫌われ役も鬼軍曹もいない組織作り。
posted2020/03/18 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
時代によって、組織は変わっていかなければ戦えないし、生き残っていけない。
時代性を感じ取ることは難しく、先取りすることはより難しい。ただ意図せず時代の先を行っていることも稀にある。果たして、佐々岡真司監督が指揮する新生・広島は、新たな時代のモデルケースとなるだろうか。
昨秋のキャンプも、春季キャンプも、広島の空気は明るかった。新井貴浩氏が“家族”と表現した2010年代後半の広島もそうだったが、今年はまた違う。雲ひとつない快晴のような明るさを感じる。新生・広島を照らしているのが、佐々岡監督と言えるだろう。
現役時代から人柄の良さは有名だった。個性派揃いの中でも誰からも慕われていたと聞く。球界OBも「佐々岡の悪口を聞いたことがない」と言っていた。
監督となれば、現場の長であり、選手の起用を決める最高責任者。コーチ時代のような選手との距離感を保つのが難しくなる。自身が変わらなくても、周囲が立場の変化や過剰な意識から距離を取ることもある。
ただ、佐々岡監督は相手が一歩引こうとすれば、歩み寄り、相手が間合いをはかっていれば、自ら詰めた。堅苦しい話ばかりでなく、冗談やプライベートな話もする。だから自然と表情が緩み、笑顔も見られる。チームの明るさはそうやって生まれていた。
佐々岡監督が欠かさなかった「対話」。
就任会見時から「一体感」を掲げ、選手に求めた。浸透させるため、自ら率先する。春季キャンプでも積極的に動き、話し、聞いた。主力だけでなく、控え選手にも。ベテランだけでなく、若手選手にも。相手は問わない。
「(昨年まで)投手コーチで、そこまで練習中に話をすることもなかったので。まだまだコミュニケーションを取りながらやっていきたい」
競争を求めたキャンプでも「対話」は欠かさなかった。
緊張と緩和のバランスが絶妙だった。選手たちからも「佐々岡さんは監督になっても変わらない」という声が多く聞かれた。
監督に就任して間もない秋季キャンプでキャンプ地の日南に到着してすぐに、大量の紙袋を持った関係者と宿舎を出て行った。聞けば、なじみの店やお世話になっている関係各所に手土産を配ったという。その2週間前、フェニックスリーグ視察で同地を訪れたときにも手土産を配って回ったというから驚きだ。