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川崎・田中碧の心に野村克也の1冊。
「楽しくない」時期を乗り越えて。
posted2020/02/22 08:30
text by
林遼平Ryohei Hayashi
photograph by
Getty Images
サッカー小僧――。川崎フロンターレの指揮官・鬼木達監督からそう称されるほど、誰もが認めるサッカー好き。
「普段、家に帰ったら何をしているのか」と聞けば、「サッカーしか考えない。だからサッカー以外のこと考えられる人はすごいなと思う」とさらりと言う。
それが田中碧である。
1月下旬、ふとした会話の中でそんな田中が口にした言葉に引っかかった。いや、驚いたと言っていい。
「サッカーが楽しくなくなっていた」
え? と陳腐な返しをしてしまうほど、意外な言葉に驚きを隠せなかった。
「どこかに食べに行くとなっても、絶対どこかでサッカーのことを考えて、これは止めよう、何時に帰ろうと考えてしまう。基本的にサッカーから離れることはあまりない」
「サッカーやっているときが一番、リフレッシュできるかもしれない。だから連休をもらっても全然嬉しくない(笑)。連休があっても結局、クラブハウスに行って筋トレしちゃうんで」
そんなことをあっけらかんと言ってしまう男が、である。
ピッチでもロッカーでも家に帰っても、四六時中サッカーのことを考えるようなサッカー大好き人間から、そんな言葉を聞くなんて思いもしなかった。
急スピードで成長、同時に苦い思いも。
ただ、それにはわけがあった。
昨年、田中は周囲の想像を遥かに超えるスピードで成長を遂げた。チームでレギュラーに定着し、代表でもE-1選手権に挑むA代表に選出された。一気に階段を駆け上がった。
もちろん、いいことばかりではない。川崎では自分がピッチに立つことが増えた中で、リーグ3連覇を成し遂げることができず悔しさを味わった。東京五輪代表でも1月のタイで行われたAFC U-23選手権に出場してグループリーグ敗退。自身も第3戦でVAR判定の末に退場処分を受けるなど、散々な出来に終わった。
これらの経験が田中を大きく成長させたことは間違いない。だが、様々な経験をし、いろいろなことを吸収することで、日々考えることが増加。その積み重ねが自身のキャパオーバーを生み、考えることに疲れるようになっていたのだ。