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サイン盗み問題で謹慎処分になり、
それでも堂々と謝罪した男の誇り。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byReuters/AFLO
posted2020/02/14 11:40
青木宣親とも良好な関係を築いていたヒンチ前監督(右)。サイン盗み問題で重大な罰則を受けた。
「ノリはもう同じミスをしない」
ディフェンスだろうが、オフェンスだろうが、彼には明確なコンセプトがあり、そのイメージに沿ったプレーができなかった理由もはっきりしていたのだ。そして、彼は「それについてノリに話はするけど、もう終わったことだから」としながら、最後にとてもプロフェッショナルな態度でこう言ったのである。
「ノリはもう同じミスをしない。私には分かっている」
その言い方はちょっと、心を捉えた。
もちろん、そんな風に選手を真直ぐに信じる監督だったからと言って、今回の「スパイ疑惑」で「選手を信じることが仇になった」などと結論付けるつもりはない。
件のインタビューで彼がひとりで説明責任を果たさなければならなかったのは、彼自身が「今の私には自信があるけれど、2017年は今より自信がなかった」と語ったように、「スパイ行為」が行われていることを知りながら、それを止められなかったからだ。
彼はあの用意周到な「スパイ行為」に使われていた機器を、2度にわたってバットで殴って壊してメッセージを送りながらも、その首謀者である者たちに対して面と向かって「私はこのやり方が好きじゃない。もう止めようじゃないか」と言うことができなかったのだ。
罪を全面的に認めて、なお誇り高く。
だから、インタビューで「すべては監督である私の責任だ」と話す姿に潔さは感じても、「私にはもっと多くのことができたはずだし、そうすべきだった」と後悔の念を見せることには、同情する気持ちはあまり湧かなかった。
インタビューで印象的だったことがあるとすれば、それはヒンチ監督が罪を全面的に認めながらも、許しを乞うような哀れな感じを一切出さなかったことだろう。
彼は「決して誇りに思えない過ちを犯した自分が、この状況でどのように対処するのかを、自分の家族に見て欲しいと思った」と言い、ある種の誇りを持って行動していることを強く、感じさせた。