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東京V永井監督が招いた“吉武先生”。
35年対話を重ねた師弟のサッカー。 

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海江田哲朗

海江田哲朗Tetsuro Kaieda

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photograph byTetsuro Kaieda

posted2020/01/30 11:30

東京V永井監督が招いた“吉武先生”。35年対話を重ねた師弟のサッカー。<Number Web> photograph by Tetsuro Kaieda

ボールを支配する哲学を押し出す2人。永井秀樹監督(左)と吉武博文コーチのヴェルディはどんなチームになるのか。

昨年暮れに「力を貸してほしい」と。

 45歳で現役を退いた永井が、指導者の道に入ったのは意外だったという。

「彼は経済界との交流も盛んでしたので、クラブの経営者や強化の仕事を志すものだとばかり考えていたんです。あの性格でしょ? 率直に向いてないと思った。ユースの監督を始めたときは、やめとけやめとけしか言わなかったです。S級ライセンスを取りにいくと聞いても、そんなもん要らんだろうと。私のその態度には、ずっと反発していました」

 様子が気になった吉武は、永井が預かる東京Vユースの指導現場に何度か足を運んだ。

「えらくまじめにやってましてね。選手時代とはまるで印象が違いました。自分の見立てが間違っていた、悪かったと謝りましたよ」

 2019年7月、永井は低迷する東京Vを預かる格好で監督に就任。だが、チームを浮上させられず13位に終わった。

 吉武のもとに、あらたまった調子で連絡を寄こしたのは、その年の暮れが押し迫った時期だった。2018年6月、吉武はFC今治の監督を退き、JFAアカデミー福島のコーチに就いていた。

「クラブの体制は整えたので、力を貸してくれと。そんなふうにいきなり言われても困るんですけれど、ふと思ったんです。もともと永井は他人に対して甘えたり、頼ることをよしとしない人間。これまで自分に頼み事をしてきたことがあっただろうか。ただの一度も思い当たりませんでした」

先生と呼ぶな、という条件が。

 吉武は仕事を引き受けるにあたって、ひとつだけ条件を付けた。

「自分を先生と呼ぶな」

 監督が配下のコーチングスタッフにそんな態度を見せては、周囲に示しがつかない。

 だが、この要求は反故にされる。今季のチーム始動日、永井監督は吉武ヘッドコーチを紹介するにあたって、「この人は、吉武博文先生という名前だ。だから自分は省略して先生と呼ぶ」と高らかに宣言。いかにも詭弁である。が、それなりに苦心したあとが見え、吉武は苦笑いするしかなかった。

【次ページ】 「基本姿勢は、和して同ぜず、です」

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