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国見史上最も丁寧にノートを書く男、
渡邉大剛の罰走で始まったプロ人生。
posted2020/01/23 11:40
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Yoshiaki Matsumoto
昨年末、1通のLINEメッセージが届いた。
「来シーズンも、品川CC横浜でプレーすることになりました」
送り主は、渡邉大剛。京都サンガ、大宮アルディージャ、釜山アイパーク(韓国)、カマタマーレ讃岐で活躍した名MFだ。昨年2月に現役を引退し、選手の代理人としての活動を始めた。同7月からは神奈川県社会人サッカーリーグに所属する品川CC横浜に加入し、代理人と選手の二足の草鞋を履く。
彼のプロキャリアは、国見高校時代のある“事件”をきっかけにスタートした。
2002年の春休み、岐阜県大垣市のグラウンドに名将・小嶺忠敏の怒鳴り声が響いた。
「そんなものしているなら、もう長崎に帰れ! キャプテンも剥奪や!」
恋愛禁止の掟破りのネックレス。
2カ月前に選手権を制した国見は、強豪校を集めて開かれる大会に参加するため、この地を訪れていた。2年生で全国制覇を経験した渡邉は、新チームの主将に任命されたばかり。選手権3連覇へ好スタートをきるために燃えていた。
ただし、思春期真っ盛りである。彼は銀色のネックレスをぶら下げて、この遠征に参加していた。「恋愛禁止」の掟を破り、内緒で交際していた同級生の彼女からもらったプレゼントだった。それがコーチに見つかり、小嶺忠敏監督のお説教が始まった。
グラウンドに全力で反省の言葉を叫ぶ渡邉の声が響いた。小嶺の吊り上がった眉も、ようやく元の位置に戻った。
「わかった。じゃあ残っていい。ただし、試合には出さん。走っとけ!」
何とか許しを得た“元キャプテン”は、すぐさま走った。ピッチの縦一面分をダッシュ、ダッシュ、ダッシュ。国見の試合中には、マネジャーの仕事をこなす。仲間のために飲み物を準備し、ビデオでピッチ上を撮影する。
試合が終われば、再び走った。小嶺とコーチ陣は次の試合の準備をしているから、この“罰走”の様子を見ていない。それでも一切手を抜かずに、ダッシュ、ダッシュ、ダッシュ。