“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権を味わった興國・樺山諒乃介。
ライバルに教わった「10番」の意味。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/01/09 08:00
選手権1回戦、昌平高校に敗れた興國高校。2年樺山諒乃介は悔しさを滲ませながら、来季への意欲を語った。
昌平・10番須藤の輝き。
そして年が明けた1月2日、興國にとって初戦となる昌平高校との2回戦。彼を待っていたのは「完敗」という2文字だった。
昌平は、興國と同じように近年メキメキと力をつけてきた高校だが、すでに2度も選手権に出場し、インターハイでは全国ベスト4を経験するなど、大舞台には慣れていた。しかも試合会場は昌平のホームとも言える浦和駒場スタジアム。もちろん、大阪から興國の大応援団が駆けつけたが、1万4741人という今まで経験したこともないような観客数、そして多くのメディアが創り出す独特の雰囲気に、知らず知らずのうちに飲み込まれてしまっていた。
「自分が思っている以上に身体が硬くなっていて、冷静になれなかった」
いつもと違う自分に焦る中、昌平の10番・須藤直輝の動きに目がとまった。須藤は立ち上がりから持ち味の豊富なボールタッチとボディーシェイプを駆使し、DFラインを翻弄していた。
「直輝は物凄くリラックスして持ち味を出しているのに、俺は一体何をしているんやろか」
同じ高校2年生。昨年のU-17日本代表候補合宿でともにプレーし、連絡を取り合う仲だった。興國の10番を背負う自身は心と身体がリンクしない状況なのにも関わらず、須藤はノビノビとプレーを続ける。
シュートは1本、しかも正面。
「はよ、直輝からボールを奪ってくれ」と、何度も思っていたが、興國は須藤からなかなかボールを奪えない。そして46分、須藤に個人技から先制弾を浴びると、直後の51分には味方のミスから痛恨の追加点を奪われ、万事休す。興國のシュート数は2本、そのうち1本は樺山が放ったが、そのシュートはGKの正面。
「冷静になった時間が遅かった。徐々にボールに触れられるようになったけど、最後まで直輝のようにチャンスメークをすることができなかった。本当にすべてにおいて負けました。今まで味わったことがない雰囲気で、『これが選手権なのか』と衝撃を受けました」
試合後、樺山は素直な思いを包み隠すことなく吐露した。その表情からは固い意志を感じた。
「大阪府予選を勝ってから、注目度が一気に上がって、ちょっと僕らの中で浮かれているというか、ちょっと調子に乗っていた部分が自分を含めてあったと思う。そこを今回、昌平に目を覚まさせてもらったというか、火をつけてもらったと思っています。今日ここにいた全員がそうだと思います。新たな目標、ライバルというか、『打倒・昌平』が僕らの合言葉になるのだと思います」