酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
筒香嘉智&秋山翔吾のMLB移籍と、
菊池涼介の残留で浮かぶ3つの数値。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/01/09 11:40
メジャー移籍はかなわなかったのは残念だが、菊池涼介の守備が2020年も日本で見られる楽しみがあるとも言える。
“投資対象”としての年齢を見る。
<(3)2020年開幕時点での年齢>
筒香嘉智 28歳
秋山翔吾 31歳
菊池涼介 30歳
MLB平均 27.9歳
MLB平均は、2019年閉幕時点で30球団の野手平均年齢から割り出したもの。
MLB各球団の選手獲得は、一種の「投資」だ。この先何年、チームに勝利をもたらしてくれるかを勘案して選手と契約を結ぶ。当然、実力があって若い選手と契約をしたほうが投資を回収しやすくなるため、年齢は非常に重要な指標になる。
筒香は2020年シーズン開幕時点で、MLBの平均年齢とほぼ同じ。決して若くはないが、ここから投資を回収することは十分に可能だ。
秋山、菊池はMLB球団に入団した時点で「ベテラン」の域に入る。MLBでは35歳を超すと大型契約は難しくなるし、単年契約にしてもその額も下がる傾向にある。それだけに「目の前の数字」が求められることになる。ちなみに2020年開幕時、マイク・トラウトは28歳、大谷翔平は25歳だ。
もちろんこれらの数字だけではないが、MLB球団は、NPBにおける様々なデータを勘案して筒香、秋山と契約し、菊池とは契約しなかったことになる。
持ち味である守備力と犠打は……。
NPBで菊池のプレーを見てきたファンとしては「菊池には守備力と犠打があるだろう」と言いたいところだろう。
確かに菊池の二塁守備は驚異的な守備範囲だ。2017年WBCでもそのアクロバティックな守備は世界を驚かせた。しかし守備力は打撃と異なり、他の選手と大きな差がつきにくい。
プロの二塁手であれば、1000個の打球が飛べば980個以上は処理するのだ。守備力の差はシーズンで見ると5~10個程度のアウト差でしかない。もちろん守備範囲や連係プレーなど他の要因も付随するが、MLBには“守備だけ”なら菊池に匹敵する野手はいるのだ。そのため差がつくのはどうしても「打撃」ということになる。
また2019年のMLBで犠打は、4858試合で776個しかなかった。6.3試合に1個である。一方、NPBは1716試合で1119個。1.5試合に1個だから、出現頻度が全く違う。犠打の巧拙はMLBでは重要視されない。
3人の移籍をめぐるMLBの評価は、いろんな意味でMLBとNPBの「野球の質」の違いを浮き彫りにしてくれた。