松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラテコンドー日本代表、伊藤力。
松岡修造にパラ五輪を目指すまでを語る。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/01/09 18:00
「松岡さんは大きいし脚も長いからすごくテコンドーに向いていると思います! 」とは日本代表選手の伊藤力。
「型枠に腕を挟まれちゃって……」
ここまで撮影のために立って話をしていた2人が、テーブル席に移動し、リラックスした体勢で向き合う。場所は文藝春秋社内にある休憩所。この日は休日で、周りに人はいなかった。
松岡「話の続きから。力さんは先天性ではなく、事故で右腕を失ったんですね。それはどういう状況だったんですか」
伊藤「前職がプラスチックの製造をしている会社で、カップ麺の容器なんかを作っていたんですけど、その過程で型枠に腕を挟まれちゃって。ぐちゃぐちゃになって切断するしかない状態になりました」
「機械を1度止めるのも億劫なくらいに忙しかった」
松岡「あまり思い出したくないことなんでしょうけど……。普通なら型枠に腕を入れることはないですよね」
伊藤「ルールをちゃんと守っていたら潰されることはなかったです。型を取るのでほんの少しでもゴミが入るとそれが形に出てしまう。そうなると製品にならないんですね。その時はたまたま生産に追われていて、機械を1度止めるのも億劫なくらいに忙しかった。ふと手で拭けば間に合うだろうと考えて、手を入れたらまさかの腕が引っかかってという。それ以前にもやったことはあって、問題なくできていたんですけど、その時はダメでした」
松岡「引っかかったのは洋服ですか」
伊藤「いや、腕です。なんて言ったら良いのかな……。引っかかって、抜けなくなって、ハイ時間切れみたいな感じで型枠が落ちてきて、そのままミシミシって腕が……。それこそめちゃくちゃ痛いです。油圧だからゆっくり来るんですよね。だから骨もゆっくり潰される」
松岡「想像するだけで怖いです。それは途中で止められなかったんですか」
伊藤「できなかったです。運悪く右腕を挟まれてしまって。右側に停止ボタンがあったので、左腕だと届かなかったです」
松岡「その光景は何度も夢に出てくるんじゃないですか」
伊藤「いや、入院して2、3日は『なんで手を突っ込んだのかな』と考えたりして、『夢だったら良いな』とも思いましたけど、1度吹っ切れてからは夢に見ることもないですね」