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レスリング五輪出場権を巡る残酷さ。
太田忍の初戦敗退に後輩選手は……。
posted2019/12/25 18:00
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Kyodo News
「やらかしてしまった」
試合後、太田忍(ALSOK)は独り言のように何度もそう呟いた。
12月21日、東京で行なわれた全日本レスリング選手権大会第3日。男子グレコローマンスタイル67kg級1回戦で誰もが思わぬアップセットが待ち受けていた。
今年の世界選手権63kg級優勝の太田がノーマークの井ノ口崇之(自衛隊体育学校)に、0-8というスコアでまさかのテクニカルフォール負けを喫してしまったのだ。
前日に組み合わせが決定した時点で、関係者の誰もが準々決勝(2回戦)と思われていた太田vs.高橋昭五(警視庁第六機動隊)に注目していた。日本体育大学では太田の1年後輩にあたる高橋は、今年の世界選手権日本代表だった。
同選手権では5位以内に入賞し、東京オリンピックへの日本の出場枠をしっかり取ってくることが期待されたが、3回戦で逆転負け。そこで代表選びは振り出しに戻ったため、いやがうえにも67kg級に階級を上げた太田に注目が集まった。
60kg級で宿敵・文田に敗れて……。
もともと太田は60kg級で東京オリンピックを目指していたが、今年の全日本選抜選手権で“宿敵”である文田健一郎(ミキハウス)に敗れ、階級転向を決意。世界選手権では非オリンピック階級の63kg級で優勝したうえで、今大会にはオリンピック階級の67kg級にエントリーした。
3年前のリオデジャネイロ・オリンピックではグレコ59kg級で銀メダルだった。日本グレコチームの中では唯一のメダル獲得だったが、太田はそれだけで満足せず、「オリンピックの借りはオリンピックでしか返せない」と心に誓い、東京オリンピックでの金を目指すことにした。
ライバルでもある文田からかけられた一言が心の支えだった。
「先輩、一緒にオリンピックに行きましょう」