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レスリング五輪出場権を巡る残酷さ。
太田忍の初戦敗退に後輩選手は……。
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byKyodo News
posted2019/12/25 18:00
まさかの初戦敗退を喫した太田忍(下)。レスリング五輪出場権を巡る戦いは非常に厳しい。
関係者誰もが「優勝は固い」。
太田が67kg級への出場を決めた時点で、関係者の誰もが「優勝は固い」と口を揃えた。
それはそうだろう。
文田がいなければ、太田は60kg級で世界チャンピオンとなり東京オリンピックへの出場切符を手にしていた可能性が高い。「急な階級変更が響いた」という声も聞こえてくるが、太田は言下に否定した。
「今秋にはロシア遠征にも行かせてもらい、現地では世界チャンピオンや世界2位も含め練習試合も5~6試合した。試合形式としてはワールドカップ(11月にイランで開催予定だったが、政情不安のため延期に)と同じくらいの数の試合をやったと思っています」
準備期間が数カ月と短かったことも言い訳にはしない。
「僕はしっかりと準備をしてきたつもり。時間がなかったとは思わない」
不運な反則、まさかのカウンター。
井ノ口戦はアンラッキーな面もあった。第1ピリオド、太田がぶら下がりの形で技を仕掛けると、そのまますっぽ抜ける形になってしまった。仕掛けた太田の技が失敗した時点で主審が割って入ってもおかしくなかったが、ここで太田はレッグファールを犯したと見なされてしまう。
上半身のみを攻め合うグレコローマンにおいて、対戦相手の脚部を手で掴む行為は反則。これで2点。そしてニアフォールの体勢になったため、さらに2点。太田はいきなり窮地に追い込まれた。
「最初の投げの失敗という展開でなぜコーションがついたかわからないけど、そこでちょっと焦ってしまった。もっとプレッシャーを強め、崩してからかけていれば――」
そして第2ピリオド。井ノ口は体力を消耗しているかのようにも見えたが、プレッシャーをかけ続ける太田にカウンターの一本背負い投げを一閃。これが見事に決まって4ポイントになった。
グレコローマンでは8点以上の点差が開くと、テクニカルフォールが成立する。太田の67kg級での挑戦は、ここで呆気なく終わった。信じられない気持ちでいっぱいになった。