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長い試合時間と新ルールの提案。
MLB、「打者最低3人」案に物議続出。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2020/01/04 08:00
2019年10月、エンゼルスの監督に就任したジョー・マドン。カブスを108年ぶりのワールドシリーズ制覇に導いた知将は新ルールに大反対。
「ひたすら祈りつづけるしかないね」
もうひとつ、実例を出しておこう。2019年のALCS第2戦で、ヤンキースのアーロン・ブーン監督が取った継投策だ。
同点で迎えた延長10回裏、アストロズの先頭打者マイケル・ブラントリーを打席に迎えて、ブーンは左腕のCC・サバシアをマウンドに送った。
サバシアが左打者のブラントリーを予定どおり打ち取ったあと、ブーン監督は右腕のジョナサン・ロアイシガにつないだ。ホゼ・アルトゥーベ、アレックス・ブレグマンと、右の好打者がつづいたためだ。
ところが、この日のロアイシガは制球が定まらない。ふたりを連続して歩かせたところで、ブーンは、J・A・ハップに交代させた。
この一連の交代が、提案された新ルールでは認められなくなる。明らかに調子の悪いロアイシガを「ルールで」続投させなければならないと知ったら、スタンドの観客はどんな反応を示すだろうか。
メディアの報道を見ると、戦略家として知られるジョー・マドン(エンジェルス監督)は、「そんなルール、最初から気に入らない」と一刀両断しているし、マイク・シルト(カーディナルス監督)やロン・ガーデンハイア(タイガース監督)ら頭脳派の監督も、こぞってこの提案に反対している。
「ナ・リーグ最低のブルペン」を率いて2019年のワールドシリーズを制したナショナルズのデイヴ・マルティネス監督などは「そんなルールができたら、ブルペンから怪我人や病人がひとりも出ないよう、ひたすら祈りつづけるしかないね」と、皮肉混じりのコメントを残しているくらいだ。
コミッショナーは、現場の声に耳を傾けたほうがよいのではないか。