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全日本選手権でよもやの逆転負け。
空手・植草歩が流した覚悟の涙。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2019/12/12 19:00
史上初の5連覇は果たせなかったが、早ければ来年1月開催のプレミアリーグ・パリ大会後に五輪が内定する植草。五輪イヤーの幕開けを笑顔で飾れるか。
最後は激しい連打になった。
その後は齊藤の予想通りの展開。実力のある植草が1点ずつ返してくるが、齊藤も気持ちで引かない。
「大技も狙ってくるだろうし、突きでも連打でくるだろうというのはわかっていました」
そう振り返ったように、最後は激しい連打になったが、植草の追い上げがとどかないまま、3分間が過ぎた。
齊藤にとっては植草への5度目の挑戦で初めての勝利。プレミアリーグ・マドリード大会を終えた時点で東京五輪出場の可能性が消えていた齊藤だからこその、初タイトルへの執念でもあった。
試合終了からしばらくたち、表彰式の待機エリアに戻ってきた植草は、まだ目は赤いままだったが、それでも優勝した齊藤とも会話するなど、気丈だった。
しかし、帝京大の香川政夫師範に「疲れただろう」と声を掛けられると、涙があふれた。
「本当は怒られるかなと思っていたのですが、そんな優しいことを言われたので、涙が止まらなかったです」
今年はかつてない苦しみを味わった。
東京五輪の追加種目として採用されることが決まったときから、一貫して金メダルを目指してきた。実力も安定していた。
だが、'20年に向けて順調に前進することしか考えていなかった今年は、かつてない苦しみを味わった。
7月のアジア選手権で初戦敗退し「慢心があった」とうなだれた。
帰国後は練習に明け暮れる毎日を過ごし、初心に戻って挑んだ9月のプレミアリーグ東京大会で優勝。しかし、12月1日に決勝のあったプレミアリーグ今季最終戦のマドリード大会でも初戦(2回戦)でスペイン選手に屈してあっけなく敗退するなど、波が大きかった。
プレミアリーグでは女子68キロ超級で2年連続年間チャンピオンに輝いている。
また、五輪の階級となる61kg超級では、現在オリンピック・スタンディング(世界空手連盟の世界ランキングの順位を基に決められたオリンピック選考用のランキング)で3位につけている。