オリンピックPRESSBACK NUMBER
全日本選手権でよもやの逆転負け。
空手・植草歩が流した覚悟の涙。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2019/12/12 19:00
史上初の5連覇は果たせなかったが、早ければ来年1月開催のプレミアリーグ・パリ大会後に五輪が内定する植草。五輪イヤーの幕開けを笑顔で飾れるか。
若手2人に勝って6年連続の決勝進出。
初戦の2回戦は、大学の後輩である澤江優月(帝京大1年)と対戦。開始から両者とも攻め合う中、互いに先取ポイントを手にできない時間が続いたが、植草が上段突きで1点を先取し、得意の中段突きで1点を加えて2-0。終盤に1点を返されたが、2-1で逃げ切った。
これで勢いが出たようだった。
準決勝ではこちらも若手の嶋田さらら(秀明八千代高校3年)と対戦。植草は左構え(左手前)、嶋田は右構えという「逆体」の相手に対し、開始から50秒で中段突きを決めて先取点を得ると、その後は上段のワンツーや、迫力のある中段突きで4-0と突き放し、'14年から6年連続となる決勝に進んだ。
「いつもの勝つ流れ。勝てる」
こうして迎えた決勝戦は、前日の団体戦から数えて9試合目。疲労も募る中で戦った相手は、'17年の準決勝や、今年9月のプレミアリーグ東京大会でも対戦してきた齊藤だ。合宿でも幾度となく手を合わせてきた相手である。
その齊藤に対して、植草は上段突きで様子をうかがいながら、まずは開始56秒で中段突きを決めて、大事な先取点を奪う。
「いつもの勝つ流れ。勝てる」
ところが試合が中盤に差し掛かったとき、思わぬところに技が来た。
植草が技を仕掛けてクリンチ状態になったとき、不意を突かれて上段裏回し蹴りを頭に食らったのだ。齊藤はこの技を練習するようになってからまだ2カ月だった。
植草は想定外の技で3点のビッグポイントを奪われて逆転された。
このとき、植草の心理に微妙な揺れが出たのを齊藤は見逃さなかった。
「自分の蹴りが入った瞬間に、歩先輩の顔が焦っているというか、サーッとなっているのがわかりました。冷静を保とうとする様子も感じられました」