第96回箱根駅伝(2020)BACK NUMBER
[平成ランナーズ playback vol.4]
設楽啓太「最後に見せたエースの背中」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byNanae Suzuki
posted2019/12/05 11:00
2014年の第90回箱根駅伝では5区で区間賞。意外にも箱根路では初の区間賞獲得だった。
自身初となる区間賞と会心の笑み。
2014年1月2日、当日の区間変更で3区に悠太、5区に啓太を投入すると、往路からスピード駅伝の展開に持ち込む。3区で悠太が圧巻の区間賞の走りを見せ、優勝候補の本命であった駒澤大学を逆転すると、トップでたすきを受け取った啓太もまた気迫のこもった走りをみせた。
初体験の5区の山上りに入るとさすがに苦悶で表情がゆがんだが、走りのリズムは崩れない。標高10mの小田原中継所から18.6km付近にある最高標高874m地点まで一気に駆け上がると、下り基調になった終盤は、フィニッシュの芦ノ湖までさらにペースを上げて走りきった。
箱根駅伝で自身初となる区間賞の走り。「これまで主将らしいことが何もできなかったけど、ようやく最後に見せつけることができた」と話し、フィニッシュテープを先頭で切った啓太は会心の笑みを浮かべた。
結果的にこの年は、往路で築いた59秒のリードを復路でさらに広げた東洋大が、2年ぶりの総合優勝に輝いた。
「箱根駅伝から世界へ」の文脈に。
出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝と学生三大駅伝で過去5大会連続して2位に甘んじてきただけに、喜びもひとしおであっただろう。アンカーでフィニッシュテープを切った大津顕杜の胴上げに続いて、酒井監督、啓太、悠太と4人が大手町の空に舞った。
速さだけではない、強さと速さ、両方を兼ね備えたエースランナーとして、設楽啓太の名は私の中に深く刻まれている。
一方で、この時の総合優勝をたぐり寄せた走りが、ベストではないだろうとの思いも強い。
東洋大を卒業し、実業団に進んだ後は、度重なるケガや移籍などもあって本来の調子を取り戻せないでいる。しかし、そうした苦労を乗り越えた時、大迫や悠太がひと足先に体現する「箱根駅伝から世界へ」の文脈に、啓太もきっと加わってくるはずだ。
東京に間に合わなくとも、4年後のパリ大会では……。彼の競技人生のハイライトが、この先にあることを信じたい。