第96回箱根駅伝(2020)BACK NUMBER

[平成ランナーズ playback vol.4]
設楽啓太「最後に見せたエースの背中」 

text by

小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

PROFILE

photograph byNanae Suzuki

posted2019/12/05 11:00

[平成ランナーズ playback vol.4]設楽啓太「最後に見せたエースの背中」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

2014年の第90回箱根駅伝では5区で区間賞。意外にも箱根路では初の区間賞獲得だった。

上級生になって一変した印象。

 今でこそマラソン選手としての実績で弟の悠太が抜きんでた印象があるが、学生の頃はむしろ悠太以上に啓太の評判が高かった。

 初めて設楽兄弟を見た1年生の夏合宿、夕食の際にトマトが食べられないことを上級生にいじられている姿が印象に残っている。まだ兄弟ともに線が細く、絞り出す声も細かった。特に悠太の方は返ってくる言葉もまばらで、チームの中で上手くやっていけるのかおせっかいながら心配になったものだ。

 だが、上級生になると印象は一変。

「近寄りがたいです」と1年生の1人がつぶやくほど、東洋大のエースに成長した彼らからは自信が感じられた。

 風格やオーラは、実績が作り出す空気感のようなものだろう。

エースの啓太を5区で起用。

 2人はともに4年生の時に宮崎のゴールデンゲームズに出場。優勝した啓太が27分51秒54、3位に入った悠太が27分54秒82と、トップランナーの証しである10000m27分台の好記録を叩き出した。早稲田大学の大迫傑の記録(学生記録の27分38秒31)を含め、3人の同学年が学生のうちに27分台をマークしたのは史上初めてのことだった。

 大迫の負けん気の強さは当時からの持ち味で、悠太のマイペースぶりも変わらない。啓太の凄みは一見わかりづらいが、対応力にあるのではないか、と私は思う。

 最後の箱根路に挑んだ、4年生の走りがまさにそうだった。

 前年、“山の神”と称された柏原竜二が抜け、総合優勝を逃した東洋大は、この年、主将でエースの啓太を5区に起用するという勝負手に出た。

 体重の軽さや馬力を必要とする上りの適性を心配する声もあったが、その日の風が弱い天気コンディションを見て、酒井は勝機を見いだしたのだろう。

【次ページ】 自身初となる区間賞と会心の笑み。

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