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「ついで」の存在からドラフト指名。
父の死、難病も乗り越えた望月大希。
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byRyotaro Nagata
posted2019/10/21 20:00
日本ハムから5位指名を受けた創価大・望月大希。女手ひとつで育ててくれた母と写真に収まった。
末期の腎不全になる可能性も。
「扁桃腺が結構大きくなっていたらしくて、手術では結構血も出ました。術後も最初は流動食をずっと食べていたんですが痛くて、飲み物も飲めなくて、唾を吐くとかさぶたが剥がれてまた血が出てきたりもしました。1週間くらいはご飯も食べられない状態が続きましたね」
IgA腎症は診断時の腎機能や症状により予後が異なってくる病気である。
成人発症では10年間の内に透析や移植が必要な末期の腎不全になる確率が15~20%、20年間では約40%まで膨れるとされている。術後の経過観察もかなり慎重に行われた。
「(杉山と小孫の)2人がずっと先発をやっている中で、自分はどうしても体のことがあった。監督やコーチとも話して、最初はイニング数も決めてという感じだったので、『なんで自分だけが……』『別に体に異常はないのにな……』とは思っていましたね。でも、そこは自分のことだけでなく、チーム全体のことも考えました。悔しい思いは確かにありましたが、自分にできる役割をこなすことを考えていました」
早期発見だったことも幸いして、その年の秋を迎えると望月の症状はみるみるうちに良くなった。
「ようやく間に合った」秋のピッチング。
そんな望月にとって、ひとつの転機になったのが2017年の関東地区大学野球選手権決勝である。日体大相手に先発の杉山が序盤から相手打線に捕まって4失点。3回途中から望月がマウンドに上がった。
すると、ストレートとカーブを中心にした持ち前の打たせて取るピッチングで相手打線を翻弄。7回の2死満塁のピンチもなんとか凌ぎきり、終わってみると5回1/3、打者23人を3安打に抑えて1失点。岸雅司監督を安堵させた。
試合後、岸監督はこう言って望月の健闘を称えた。
「大きな収穫です。いつも抑えで1イニングか2イニングしか投げられなかった子が今日は5回1/3を投げた。初めてそんなに投げさせたので不安もありましたが、良かったと思います。彼は血尿が出たり、蛋白尿が出たりして、ずっと検査で過ごしてきたシーズンでしたが、原因が分かって、治療すれば大丈夫だと医者からもお墨付きをもらったんです。それでようやくこの秋に間に合った。やっぱり上に行くためには2人(杉山と小孫)だけでは厳しいので、望月が出てきたのは大きい。彼も自信になったんじゃないか」
望月も当時を振り返りながらこう言う。
「2年秋の関東大会(横浜市長杯)あたりで短いイニングで投げさせてもらって、感覚もよかった。それから(明治)神宮大会に行って最速も更新できた。そこで『自分もやれるんだ』と思えたのがきっかけだったと思います」