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心臓手術を乗り越えた武田英二郎。
横浜FCの中間管理職が感じる恩義。 

text by

安藤隆人

安藤隆人Takahito Ando

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photograph byTakahito Ando

posted2019/10/18 15:00

心臓手術を乗り越えた武田英二郎。横浜FCの中間管理職が感じる恩義。<Number Web> photograph by Takahito Ando

試合終了後、イバ(右)とじゃれ合う武田英二郎。偉大な先輩と活きのいい後輩たちを繋ぐ存在として重宝されている。

どん底から見たベテランたちの姿。

 どん底から救い上げてくれたクラブで見たものは、そこで躍動する大ベテランたちの姿だった。

「横浜FCは珍しいクラブだと思う。カズさんのように、とてつもない経歴を持ったスター選手が多い。そのスター選手たちが全然偉ぶっていないというか、誰よりも一生懸命に練習に取り組んでいる。人間的にも凄く魅力的なんです。クラブハウスに忘れ物を取りに戻ったら、カズさんはまだお風呂で交代浴をしていたり、(南)雄太さんも練習後に毎日アイシングを10個くらい足に巻いて、アフターケアしている。

 俊さん(中村俊輔)もチームに加入してばかりのころから、『英二郎、このチームはこういうボール回しをするから、もうちょっと内側にポジションを取ったらプレーしやすくなるよ』とアドバイスをくれた。

 みんな見えているところが深いし、毎日の努力を当たり前のようにやっている。努力することを楽しみながら、まるで呼吸するように自然にやる。どんなに経歴を重ねても、どれだけ名誉を得ても、サッカーを大事にして、真剣に向き合っている。そういうのはこのチームでしか感じられないこと。この環境に感謝しながら毎日取り組めています」

 昨シーズンはリーグ32試合に出場、J1昇格プレーオフ進出に貢献。今季も開幕スタメンを飾り、一時怪我で離脱することがあったものの、第19節以降はスタメンに復帰。第26節のアビスパ福岡戦から金沢戦まで11試合連続スタメン(第29節から8試合連続フル出場)。リーグ戦18試合負けなし(12勝6分)のチームの快進撃に大きく貢献している。

「背中を見ろ」なんて1ミリも思っていない。

「たぶん、僕がベテランの空気を出そうとしたら、無理してることやカッコつけていることが伝わると思う。だから、年下の選手たちには自然体でフランクに接しようと思っています。後輩たちがサッカーを楽しくできるように話しかけたり、ご飯にも連れて行く。サッカー面でも偉そうに指示を出したり、こうしろ、ああしろと言うのではなくて、同じ目線で議論をする。技術的にはみんな僕より上手いわけですから。僕が持っているものと言ったら、いろんなクラブを渡り歩いて、いろんな監督の下でサッカーをしたこと。経験だけは無駄にあるので(笑)

 それに横浜FCには拾ってもらった恩義があるし、自分のような選手は毎日練習に100%で向き合わないと生き延びていけないことは十分にわかっている。年下の選手たちには『俺の背中を見ろ』とは1ミリも思っていないけど、『こういう選手もいるんだな』と思ってもらえるだけでいいのかな」

 こう語る彼を見て、将来有望な選手にとって「最高のお手本」の1人になっているのだと確信できた。

「今、J1に上がるチャンスだと思うし、その力もあると信じているので、その一員としてやりきりたい。チームとしても、個人としても、このチャンスは絶対に逃したくない。ここからは総力戦。チーム一丸となって、年上も年下も僕らのような『中間管理職』も一枚岩になってやりたい。それができるチームが横浜FCですから」

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武田英二郎

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