“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
心臓手術を乗り越えた武田英二郎。
横浜FCの中間管理職が感じる恩義。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/10/18 15:00
試合終了後、イバ(右)とじゃれ合う武田英二郎。偉大な先輩と活きのいい後輩たちを繋ぐ存在として重宝されている。
松尾、斉藤のコースを生み出す動き。
先輩から学び、後輩をサポートする。こういった武田の姿勢は今季のプレーに現れている。
金沢戦、キックオフ直後は左サイドハーフの松尾を後方から支えつつ、ヨン・ア・ピンと伊野波のベテランCBコンビと積極的に話し合って、最終ラインの連携に気を配った。
ボールを持ったときは斜めに仕掛け、相手の右サイドバックやボランチ、CBをひきつけてからワイドに開く松尾に預ける。さらにそのままペナルティーエリア脇に潜り込んでDFラインを引き下げて松尾のドリブルコースを作る。
それは60分に松尾に代わって斉藤が投入されても変わらない。1-2とリードを許す状況で入った18歳に対し、何度も声をかけて相手の状況を伝え、また斉藤の意見にも耳を傾けた。
結果、武田のいる左サイドの連係は活性化し、チームにも勢いを与えていく。
65分、金沢GK白井のファインセーブにあった齋藤功佑のシュートを放った場面でも武田は起点となる。中央左寄りでDFを背負いながらボールキープしたイバにスッと寄り、落としを受けると、すぐに大外でフリーになった斉藤にボールを預けた。武田は相手のDFを押し下げ、斉藤が得意とする中へのドリブルコースを空けると、斉藤は空いたコースに沿うように細かいステップでボールを運んだ。
このプレーで試合の流れは大きく変わった。ブロックを敷いて守りを固めてきた金沢に対し、横浜FCはさらに攻勢に出る。81分にも左サイドでフリーとなった斉藤に1対1の局面を作り出し、得意の切り返しを引き出した。結果的にその斉藤が上げたクロに途中出場のFW草野侑己が押し込み、同点。さらにチームは後半アディショナルタイムにPKを獲得し、またも草野が決めて、3-2の逆転勝利に貢献した。暫定ながら自動昇格圏内の2位に浮上した。
2人とは「しつこいぐらい話をする」。
「松尾と光毅のドリブルはチームにとって大きな武器。だからこそ、僕はこの2人の特徴を最大限に生かすためにどう自分がプレーをするか。2人がいい状態でボールを受けられるよう、時間とスペースを作って、ボールを預けてからもドリブルしやすいようにコースを作る。これを意識しています。それに俺がドリブルするより、あいつらがドリブルをした方がいいし(笑)。2人がストロングを出せるような環境を整えることが自分の役割の1つ。それがチームとしても大きなプラスになるので」。
さらに2人とのコミュニケーションに話が及ぶと、彼はこう続けた。
「松尾と光毅とは試合中に本当によく話します。多いのは守備面でのこと。僕はDFなので左サイドから失点をしたくないし、連係のミスからピンチを招きたくない。それを解決するためには徹底的に話をするしかない。だから、2人にはしつこいくらい話をしに行きますね。どこを切るのか、ボールに行くのか行かないのか、ワイドを見るのか、内側を見るのか。特に崩された後はすぐに話をして『次はこうしよう』と話している。
僕は経験こそ積んでいますが、正解を持っているわけではありません。でも、できるだけ正解に近いものを共有できればいいと思っている。彼らの良いところはしっかりと自分の意見も言い返してくれること。意見をすり合わせながら、話を建設的にできるので、いい関係ができていると思う」
こう話す彼は立派なベテラン選手だった。若い力を尊重し、チームのために自分がやるべきことをこなす。武田が自然とこの意識を持てたのは、ただ年齢を重ねただけではない。それは彼がこの4年間で味わってきた「激動の日々」にあったように思う。