プロ野球亭日乗BACK NUMBER
「敗れる怖さ」を知る阿部慎之助。
引退は巨人の伝統を引き継ぐために。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2019/09/26 17:00
9月25日、笑顔で引退会見を開いた巨人・阿部慎之助。
背番号10のTシャツが配られた。
「だからそういう道を目指した方がいい」――目的が決まったなら1日でも早くその道を歩き出すことが、阿部にとっても巨人にとってもベストの選択だったということだ。そう考えると、周囲には唐突に映ったとしても、「引退」は2人の話し合いでは当然の帰結だったように思うのである。
阿部らしい決断の早さ。この引退劇もまた、監督としての資質を示す大きなファクターということになるのかもしれない。
会見に出席したメディア関係者には球団の計らいで背番号10のTシャツが配られて、全員がそのTシャツを着て主役を迎えた。会見が終わると坂本勇人内野手、亀井善行外野手に、「もう一度ボールを受けたい」と語っていたスコット・マシソン投手と「ボールを捕ってまた頭をひっぱたきたい」と笑った中大の後輩・澤村拓一投手が駆けつけて花束を渡すサプライズも用意された。
「死ぬ寸前まで野球が好き」
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19年の現役生活では2000本安打と400本塁打を達成するなど、数々の勲章を手にしたが、「誰よりも野球が好き。そこが原動力だと思う」と、阿部はその源を語る。
「野球は正解がないところが魅力。配球であったり打ち方であったり、作戦であったり全てにおいて正解がない」
その極めても極めきれない奥深さの虜となってボールを追い続けてきた。
「僕にとっては一寸たりとも心の中から消えないものでしたね。何かしているときも心の中で野球のことしかなかったんじゃないかなと思う。死ぬ寸前まで野球が好きなんじゃないですかね」
1年目の開幕戦で「8番・捕手」で起用してくれた恩師の長嶋茂雄終身名誉監督に電話で引退を報告するとこんな会話があったという。