バレーボールPRESSBACK NUMBER
遅咲きの不器用なセッター佐藤美弥。
初のW杯……1人で背負わなくていい。
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byItaru Chiba
posted2019/09/18 08:00
韓国戦敗戦の責任を一身に背負っていた佐藤美弥。リオ五輪では代表メンバーから落選しているだけに、東京に懸ける思いは強い。
「美弥さんのトスは、すごく優しい」
中田久美監督が就任後、3シーズン目。なかなかセッターが固定されずにいたが、大方の予想は、きっと佐藤が正セッターになるだろうという見解だった。
もちろんそう思わせる理由がある。セッターとしての基本要素はさることながら、何より、共にコートへ入ってトスを打つアタッカー陣から寄せられる信頼は絶大で、多くの選手が「打ちやすい」と声を揃え、古賀紗理那はセッター佐藤をこう評する。
「美弥さんはどんな状況でもアタッカーを見捨てないんです。たとえば1本決まらなくてももう1本持ってきてくれるし、私が万全な状態で入れず、攻撃が決まらなかったとしても『ごめん、今は私が間をつくれなかった』と矢印が自分に向く。こうしたいからこう入って、というセッターではなく、私はこう打ちたいからここに入る、そうするとトスが来る。美弥さんのトスは、すごく優しいんです」
中田監督の評価は高いが……。
だが、佐藤は焦っていた。
'17年のワールドグランドチャンピオンズカップでは冨永こよみが正セッター、翌年の'18年はアジア選手権では佐藤がメインで上げるも、直前の練習時にブロックで肩を負傷し、世界選手権の正セッターは田代佳奈美。今年度もVリーグでルーキーシーズンながら活躍した関菜々巳を招集。
中田監督も「トスの質や組み立て、ゲームメイクの面で優れているのは佐藤」と高く評価していたが、「海外勢を相手にどうなるか、試してみたい」とスタート直後の欧州遠征、ネーションズリーグ序盤までは関をメインで起用した。
結果を残すことで証明したい。だが、なかなかそのチャンスが巡ってこない。
「みんないい選手だし、いいところばかり目が行くんです。そのたび、自分ももっとこうしなきゃ、と比較してしまう。なかなか気持ちが切り替えられませんでした。対戦するのは仲間じゃなく、相手チームなんだ、と自分に言い聞かせていたんですけど、でもそんなことを心がけて、周りを意識していた時点で、意識しすぎていたんだと思います。どうしても残りたい、今度は絶対外れたくない、という思いがものすごく強くありました」