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山本尚貴はF1シート獲得を諦めない。
レッドブル重鎮に現れ始めた変化。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMamoru Atsuta (Chrono Graphics)
posted2019/08/26 18:00
ドイツGPを訪れた山本。F1マシンをドライブするチャンスは訪れるだろうか。
エンジニアが返答した「正解だ」。
「セッティングを変えた後、エンジニアからほとんど説明がなかったので、『試されているな』とわかりました。でも、どのようにセッティングを変更したのかと考えすぎると自分のセンサーがおかしくなるので、自分が感じたことを素直にフィードバックすることに集中しました」
山本が感じたままのことを伝えると、レッドブルのエンジニアに「正解だ」と微笑みながら返答されたという。
山本がF1ドライバーになるためには、シミュレーターテスト以外にもいくつかの関門がある。そのひとつが「31歳」という年齢だ。5冠王者のルイス・ハミルトンは34歳、4冠王者のセバスチャン・ベッテルも32歳である。
しかし、彼ら名ドライバーたちも年齢とともに成長を続けているからこそ、タイトルを複数回取り続けることができることも事実。レーシングドライバーにとっての年齢は、肉体的な衰えよりも、経験を積むことで円熟味を増すという意味でポジティブな要素として考えるべきではないだろうか。
年齢のことはいっさい口にせず。
レッドブルのヘルムート・マルコは、昨年のF1最終戦のアブダビGPを視察に来ていた山本と会った際、山本の年齢を気にしていた。マルコは、モータースポーツアドバイザーとして、レッドブルとトロロッソのドライバー決定に大きな影響を与えている。そのマルコが今年の7月に再会したときには、年齢のことをいっさい口にしていなかったという。
レッドブルでのシミュレーターテストの後、山本はドイツGPを視察した。そのレースで表彰台に上がったひとりがダニール・クビアトだった。
クビアトは'17年末に事実上レッドブルの育成システムから外され、F1のレースから離れていたが、その後フェラーリでシミュレータードライバーとしてテクニックと人間力を磨き、トロロッソで2年ぶりにF1に復帰したというキャリアの持ち主だ。
表彰台の上で歓喜するクビアトに、マルコは何を思ったのだろうか。そして、山本はどんな思いで見つめていたのだろうか。
8月下旬にも再度、山本は渡欧し、レッドブルのシミュレーターに乗ることになっている。