ゴルフPRESSBACK NUMBER
恩師が明かす渋野日向子の高校時代。
一度だけ叱った「OLになります」。
text by
石倉利英Toshihide Ishikura
photograph byToshihide Ishikura
posted2019/08/23 11:30
作陽高校ゴルフ部の田渕潔監督。支援者が作成したという記念看板とともに笑顔で写真に収まった。
「切り替えの早さ」は昔から。
ただ、それを可能にする要素は高校時代から持っていたと田渕氏は言う。
「現在の選手は、技術は誰でもうまいので、差が出るとしたら負けず嫌い、動揺しない、などのメンタリティー。そこが渋野は強かったですね。ミスショットの後のリカバリーなど、気持ちの切り替え、割り切りは早かったです」
メンタルの強さは、偉業達成の瞬間にも表れていた。
現地時間8月4日のAIG全英女子オープン最終日。17アンダーで最終18番ホールを迎えた渋野は、5メートルのバーディーチャンスを迎えた。決めれば優勝。外して2パットのパーなら、同じ17アンダーで先にホールアウトしたリゼット・サラス(アメリカ)とのプレーオフへ。3パットのボギー以下なら優勝を逃すことになる。
運命の一打。大会初日からテレビ中継を見守っていた田渕氏は渋野のパットに、思わず息をのんだ。
「強く打ったので『うわっ!』と思いました。あれで入らなかったら大きく外れて、3パットになっていたはずです」
スライスのラインに乗ったボールは、ど真ん中からカップに吸い込まれた。
優勝を決めた“強気”のパット。
「ああいう場面で選手の本質が出るんです。『2パットでもいいかな』と考えるか、『絶対に入れてやる』と考えるか。あの状況で決断し、練習通りに強く打って、入れるのは、強いものを持っていたからであり、努力の積み重ねがあったからでしょうね」
渋野は優勝後、最後のパットを「強気でいった」と振り返っている。この日、3番ホールが4パットのダブルボギーとなるなど不調だった前半から一転、後半9ホールで巻き返したのも、優れたメンタリティーの賜物だろう。
「スマイル・シンデレラ」の異名通り、高校時代も笑顔が印象的だった。とはいえ、思うようなプレーができず、不機嫌になることも。それでも田渕氏はゴルフの特性を踏まえて、渋野に問いかけた。
「『ふてくされても、どうしようもないよ。自分でやっているんだから』と言っていました。ゴルフは個人スポーツで、自分がすべての責任を負う。失敗しても、二度としないように、前向きにやるしかないですから」