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東京五輪を目指す元プロボクサー。
高山勝成の「あと5cm」への挑戦。
posted2019/08/28 07:00
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph by
Daiki Tanaka
「高山、あと5cm、あと5cmだ」
トレーナーのケビン山崎氏から飛ぶ檄に応えるように、高山勝成も「5cm、5cm、伸ばす、右を伸ばす」と声を上げながら36歳の肉体を目一杯、追い込んでいた。
プロ40戦、ミニマム級で世界主要4団体を制覇した元チャンピオンは今、険しき茨の道を進んでいる。
一昨年、2020年の東京五輪出場を目指してアマチュア転向を表明。今年7月にアマ初戦となった全日本選手権・愛知県選考会で白星を飾り、8月31日に始まる東海ブロック予選に進出した。
「まだ東京とか、金メダルとか言える状況ではないです。1日1日、1分1秒を無駄にせずレベルを上げないと先は見えません。次の一戦、勝てばまた次の一戦。アマチュアボクシングの怖さと戦う毎日です」
高山の表情に笑顔はなく、プロの世界でチャンピオンベルトを巻いたという余裕も感じられない。
「野球でいえば3回の裏で終わってしまう」
東京五輪に出場するためには、まず11月の全日本選手権の王者となり、さらにその王者と世界選手権メダリストが異なる場合は12月のプレーオフで勝利し、来年のアジア・オセアニア予選及び世界最終予選への切符を得なければならない。タフな道のりが続く。
クレバーなベテランファイターは、現在のキーワードを冒頭の「5cm」と語る。
「アマチュアの世界では、いかにポイントを重ねていけるかがすべて。しかも3分×3ラウンドなので、野球でいえば3回の裏で試合が終わってしまう感覚です。しかも打席は3回ではなく、1試合に1回。修正もきかない、まさに一発勝負なんです。時間と機会との勝負の中でポイントを取り続けなければいけない。
だからこその5cm。あと5cmでも右のパンチが伸びれば、ほとんど相手に届く、ポイントを取れるチャンスが増える。そのためにケビンさんのところに来ました」