All in the Next ChapterBACK NUMBER
東京五輪を目指す元プロボクサー。
高山勝成の「あと5cm」への挑戦。
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byDaiki Tanaka
posted2019/08/28 07:00
8月31日から全日本選手権の東海ブロック予選が始まる。36歳、高山の運命やいかに。
「あと5cm、拳が伸びれば」
高山の言う「ケビンさん」とはトレーニングジム「トータル・ワークアウト」でトレーナーを務める、ケビン山崎氏のこと。これまでプロ野球選手やレスリング選手をはじめ、多くのアスリートのトレーニングを指導してきた。
そのケビン氏も、プロの世界で戦ってきた百戦錬磨の高山に対して、厳しいアドバイスを送る。
「高山の左は素晴らしい。ただ、右はプロ時代も調子が悪いときほどパンチが短かった。相手に届かない、伸びないパンチは怖さも与えられない。そのパンチが届かなかった瞬間、アマの世界では終わり。ポイントが取れないことを意味するからね」
その一方、ケビン氏は高山の可能性について力強く続けた。
「心底、何が起こるかわからないのがアマチュアボクシング。今は右の股関節の動きを良くするトレーニングを行い、右の膝、腰、右肩、右腕へと連動させて、最後は右の拳にすべてのパワーを宿らせるという感覚を染み込ませている。あと5cm、拳が伸びれば東京五輪は必ず見えてくる」
来年37歳、プロからアマへの挑戦。
たかが5cm、されど5cm。
高山が挑む高きハードルの中で課せられた「5cm」というキーワード。東京五輪で頂点に昇るという大偉業達成へ向けて、1秒のロスも許されないと高山は言う。
「時間がないんです。でも、短期間の中で進化してやるという思いは強いんです。達成感を感じたいんでしょうね。今月末の東海ブロック予選は右の拳の伸びを見てもらいたい。当たらないと思って間合いを取る相手に驚きを与えたい。ここまで届くんだと。そして高山はまだ爆発力を持っていることを見せつけたい。試合までの時間、やることが多すぎますね」
先日、世界のベルトを取り戻した村田諒太はアマチュアとして五輪で金メダルを獲得してプロの世界へ進んだ。だが、来年37歳を迎える高山の人生はその逆だ。プロからアマへという異例の道を歩むチャンピオンは、どんなドラマを描くのだろうか。