“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
守護神になれなかった男のJデビュー。
FC琉球のGK猪瀬康介、不屈の魂。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/07/30 19:55
流経大柏へ進学後、守護神としてのポジションまであと一歩と迫ったが、怪我などで果たせず。プロで心機一転、絶対守護神を目指す!
チーム戦術にも合っていた猪瀬のスタイル。
水戸戦をチャンスと見て、猪瀬は準備を一切怠らなかった。その姿は樋口靖洋監督の目にもしっかりと映っていた。
「半年間、彼の練習での姿を見て、十分にできるレベルにあると思った。もちろん他のGKに比べるとまだまだ足りない部分はありますが、第1、第2GKが出られないと言う難しい状況になった時に、準備がしっかりとできているかどうかが、非常に大事なこと。
彼は普段の練習から高い意識を持って取り組んでくれてましたし、何よりチームのスタイルとしてボールを大事にして後ろから繋いでいく、GKを経由しながら組み立てていくということができる。
練習を見ていてもドタバタ感がないし、むしろ自信を持ってボールを受けに行ってくれるし、受けたボールを自分の判断でしっかりと周りに出してくれる。
高卒ルーキーだと、どうしても周りの年上の選手たちから『こっちに出せ!』と言われてしまうと、それに従ってしまうけど、康介はきちんと自分の判断で選択することができた。GKとしてゴールを守るということに関しても、まだまだ荒削りな部分があるが、試合に関われるレベルになっているし、何よりチームのスタイルをしっかりと理解していることを見ても、彼がしっかりと準備ができているのがわかったので、自信を持って送り出しました」
樋口監督「お前の自己評価はどうだ?」
結果は冒頭で触れた通り3失点。1、2失点目は共に右CKを相手にヘッドで合わせられての失点で、3失点目はこの日が水戸デビュー戦となったFW小川航基に豪快なワントラップシュートを決められた。
もちろん敗戦は彼だけの責任ではない。だが、重要なのはその経験をどう受け止め、どう今後に生かそうとしているか、である。
たった1試合出ることができただけで、調子に乗ったり、勘違いをしてしまった時点で……その選手の成長は止まる。樋口監督もルーキーのデビュー戦に「失点こそしたが、ビルドアップやキックなどできちんと役割をこなしてくれた」と及第点を与えたが、水戸戦の翌日にすぐに猪瀬にこう声をかけたていた。
「昨日の試合のお前の自己評価はどうだ?」
すると猪瀬は表情を引き締めてこう答えた。
「1失点目、2失点目は僕が前に出てパンチングすれば防ぐことができた失点でした。3点目も、あんな際どいシュートも防げたり、せめて触れることができなければ、もっと上のレベルではやれないと思っています。
ただ、チームで求められた足元の部分はそれなりにできたと思います。パントキックでカウンターにつなげることができたり、ビルドアップでCBと同ラインに入って、より攻撃をスムーズに進めることもできたと思います」
これに対し樋口監督は「俺もそう思っている。いいところは出ていたし、決してネガティブになることはない。お前の考えでほぼ合っているから、それを感じただけでなく、今後の取り組みに反映させていけるかが大事だぞ」と丁寧に答えていたのが印象的だった。