サムライブルーの原材料BACK NUMBER
塩谷司は中東で、代表で何を得たか。
「30歳を超えたら欲が出てきた」
posted2019/07/17 11:45
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
塩谷司は、何気なく雨を眺めていた。
成田空港付近は、結構なザーザー降り。ボソッと一言、吐き出した。
「もうしばらくは、雨を見ることないだろうな」
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オフを終えて自宅のある広島から移動し、あと数時間後にはUAEに向けて出発する。アラビアンガルフリーグの新シーズンは8月のカップ戦から始まる。塩谷は強豪アルアインで3シーズン目を迎えることになる。
中東で生きる。
彼はアルアインで自分の地位を築いた。サイドバック、センターバック、ボランチ、そして左でも右でも後ろならどこでも任せられるとあって重宝され、レギュラーを張り続けている。チームも高く評価してくれ、契約を新たに2年更新することになった。
塩谷が再注目されたのが、活躍したUAEで開催された昨年末のクラブワールドカップ(CWC)である。初戦のウェリントン(ニュージーランド)戦は0-3から塩谷のゴールが反撃開始の合図となってPK戦に持ち込んで勝利。準決勝ではサンフレッチェ広島時代にCWCで負けていたリーベルプレート(アルゼンチン)を相手に1アシストをマークし、PK戦の末に決勝進出をもぎ取った。
決勝ではレアル・マドリー(スペイン)に完敗したものの、元鹿島アントラーズのカイオが放ったFKにヘディングで合わせて一矢報いている。UAEでアップデートしている姿を示したのだった。
久しぶりに感じた「見られている」感覚。
「僕だけじゃなくて、チームメイトがいつも以上に頑張ったというか。UAEの人って目立つ大会が好きなんですよ、普段もそれくらいやってよ、って言いたくなるくらい(笑)。あの大会のアルアインは勝負強かったと思います。個人的にもやれることはやったなって思えました。リーベルには“ひとりリベンジ”みたいな気持ちもありましたし、大会通じてゴールやアシストを残せたのは良かった。
レアルに関しては、ちょっとレベルの差があり過ぎましたね。誰ひとり100%でプレーしていない余裕があって、逆にこっちはまったく余裕がない感じでしたから。ただ嬉しかったのは、『テレビで観たよ』とか『ゴール決めたね』とかいろんな人から連絡をもらったこと。普段のリーグ戦は日本で見ることができないので、なんか久しぶりの感覚だったんでうれしかったですね」
欧州の主要リーグは日本で映像を見ることができても中東のリーグの放送はなく、日本のサッカーファンの関心も低い。塩谷に対する興味もどうしても薄くなる。そのなかで“どっこいUAEでしっかりやってる”感はインパクトがあった。「サンフレッチェの2連覇に貢献した、あの塩谷ね」と思わず声に出た人もいるのではないだろうか。