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ドラフト9位が切り札に成り上がり!
DeNA佐野恵太を変えた米国流分析。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKyodo News
posted2019/06/23 09:00
広陵高、明大を経て、2017年にドラフト9位でDeNAに入団。4月4日ヤクルト戦では満塁打を放つなど、今季は代打の切り札的存在だ。
スタジアムを出るのは終了2時間後。
たとえば、他の若手選手のように打席数をこなすためファームで実戦経験を積みたいと思わないのか? そう尋ねると、佐野はかぶりを振って即答した。
「それはないですね。もちろん打席の間隔が空いたときはすごく不安になりますけど、じゃあファームで数週間やってこいとは言われたくはないんです。もし調整している間に、他の選手が代打で活躍したら、自分の場所がなくなってしまう。あくまでも一軍に同行することが大事だし、立場を死守するためには打ってアピールしなきゃいけない」
言葉に熱がこもる。
話を聞いたこの日、チームは勝利したが、佐野に出番はなかった。試合終了後、2時間以上経過して佐野は外に出てきた。すっかり勝利の熱気は冷め、静寂に包まれている横浜スタジアム。他の選手はすでに帰路についており、佐野は最後のひとりだった。その汗ばんで上気した表情は、試合が終わってから長くバッティングマシンと向き合っていたことを窺わせた。
影響を受けた代打のスペシャリスト。
モチベーションと集中力を保ちづらい代打という難しい稼業。ましてや現在のDeNAには昨年まで所属していた後藤武敏のようなベテランの代打もおらず、身近に同じ立場で相談できるような選手もいない。ある意味、孤独な立場でもある。
佐野に、代打をやる上で影響を受けた人間はいるのかと尋ねると、一昨年までDeNAに所属していた下園辰哉の名前を挙げた。下園は勝負強い左の代打のスペシャリストであり、佐野がルーキーイヤーのときファームで一緒に過ごしていたという。あるとき佐野は下園に次のように言われた。
「代打は打てなくて当然。簡単にヒットが出ることなんてそうそうないんだから。それぐらい割り切って俺は打席に立っているよ」
この言葉に佐野は衝撃を受けた。