松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
修造、ボッチャ・廣瀬隆喜に挑戦!
振り子投法と、特注車いすの謎。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/06/24 07:30
いよいよ廣瀬さんと修造さんの対戦が始まった。アナリストの渋谷さんが、修造さんの味方につき、ボールをどこに投げるべきかをアドバイスしてくれるが……。
定説を覆した廣瀬のトレーニング。
渋谷「電動車いすは折りたためるのが普通なんですけど、彼の車いすはフレーム自体がウィルチェアーラグビーとか車いすバスケと同じくらい強固な作りになってます。対人競技ではありませんが、ボールを投げたときに車いすも揺れますよね。その揺れを彼の投球の動きやパワーにうまく還元できるような工夫をしているんですね。
先ほどの話にあったように、投げること自体が難しい障がいを持っているので、少しでも自分の力を効率的にボールに伝えさせたい。そのために車いすの揺れさえも利用してしまおう、ということで」
松岡「すごく失礼なことを申し上げているかもしれませんが、あえて感じたままをお話ししますね。隆喜さんの投球を見ていて、僕はチンパンジーとかゴリラの腕振りを想像したんです。効率的に遠心力の力を利用していて、これは動物の本能的な動きに近くて、人間の動きよりも勝っているなって。もちろん、良い意味でですよ」
渋谷「人間的か動物的かと言われると、ちょっと判別できないですけど、ボッチャの選手は特に、それぞれが彼らにしかできない投げ方をしています。普通はこうやって下半身の力も使って全身で投げるんですけど、ボッチャの選手は腕の力がメインなので」
松岡「その中で隆喜さんの特徴は?」
渋谷「彼は他の選手に比べてパワーがあって、それが大きな武器といえます。過去の写真と見比べてもらえば一目瞭然なんですが、ここ1年くらいでさらに肉体改造が進みました。
今までは脳性麻痺の方ってあまり筋肉が増えないというのが定説だったのが、ボッチャ向けのトレーニングを始めたらどんどん変わっていった。たとえば単純に腕立て伏せをするのではなくて、動かせる部位をさらに広げるリハビリテーション動作に近いもの。チューブを引っ張ったり、投球動作の分析に力を入れて、動きの幅も広がっています」
松岡「隆喜さんはどうですか。体が変わってきているという実感はありますか」
廣瀬「トレーニングを始めてから、確かに動きやすくなったという感覚はあります。どこにどう力を入れれば良いかというのも、映像分析の方や色んな方のサポートを受けて、以前よりは感覚としてわかってきたかなと」
松岡「お母さんも嬉しいんじゃないですか。何となく始めたボッチャが、体を変えていってます」
母・喜美江さん「車いすに乗っている姿勢も以前とは全然違います。力を入れるとどうしても筋緊張で足が突っ張る感じがあったんですけど、今はボールを投げた直後でも自然にそれが抜けて、真っ直ぐ座っているように見えるんですよね」
その人にとっての合理的なフォーム。そのフォームをより効果的に固めていくためのトレーニング。ボッチャという競技は、「ただボールを投げる」だけの競技と見られがちだが、その奥深さが、どんどん見えてくる。対戦しながらのトークが、続いていく。
(以下次号/構成・小堀隆司)