プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
棚橋弘至、早過ぎる復帰戦への不安。
選手生命を賭けた危険なギャンブル。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2019/05/28 11:45
左ヒジの手術を追え、4月6日以来の復帰戦となる棚橋弘至。満身創痍の体でホワイトに立ち向かう。
「別に焦ってはいない」と棚橋。
棚橋は2月の大阪でホワイトに負けて王座を明け渡した後、3月の長岡でのニュージャパンカップ準決勝でSANADAにギブアップ負け。
そして憧れだったMSGでもセイバーにギブアップ負けした。勝てない棚橋の印象がどうしても付きまとってしまう。
「無理はしないように」と担当医師に言われて、言いつけを守って調整をしているという棚橋だが、実際、試合になればどうしても無理をしてしまうだろう。
「別に焦ってはいない」という棚橋の言葉を私は信じない。棚橋が自分に残された時間を気にし始めていると感じるからだ。
1年前にはオカダから「休んでばかりいる」と揶揄された。でも、それが突きつけられた現実だった。あちこちが痛んでいるのはわかる。でも棚橋の体がどれだけ蝕まれているかは本人しか知らない。
ケガと休みと復帰がルーティーン化している棚橋だが、その復帰にあたっては必ず自分が納得できるコンディションにして復帰すると、胸を張る。その気持ちに偽りはない。
ホワイトに雪辱を果たせるか。
「プロレスラーになりたい。プロレスラーになったらチャンピオンになりたい。もし、チャンピオンを目指さなくなったら、それが引退の時だと思っている。ベルトが輝いて見える限りはチャンピオンを目指す。だから、無理だ、と思ったら、気持ちが切れるのは早いと思います。引退の決断っていうのも含めて」と覚悟を匂わせる。
ホワイトは1年半前に東京ドームで戦った時から急成長を遂げている。チャンピオンベルトを巻いて別人になった。そんな相手を選んでしまったことを棚橋は後悔していないのだろうか。
棚橋はそのハードルの高さを、棚橋の前に初めて立ったホワイトと同じくらいだと思っている。あの時と真逆の立場でホワイトと戦う。直接、ベルトを争うことにはならないが、両国は大阪の雪辱戦にしなくてはならない。
だが、ホワイトの「オレはニュージャパンに必要な男」という言葉は引っかかる。ベルトを失った今、ホワイトの最大のアピールは「エース」棚橋を倒すことではないのだろうか。
どうする棚橋弘至。ここを乗り切らなければ次の棚橋弘至は見えてこないぞ。