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テコンドー界のヒロイン山田美諭。
“蹴りのボクシング”で狙う「金」。
posted2019/05/15 10:30
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Koji Fuse
今度こそ。
テコンドーの軽量級のヒロイン・山田美諭(城北信用金庫)が、5月開催の世界選手権(英国・マンチェスター)に出場する。
2月17日、世界選手権の代表選考会を兼ねた全日本選手権で3年連続8度目の優勝を飾ると、山田は穏やかながらもハッキリとした口調で宣言した。
「ずっと世界選手権に向けて練習してきました。目標は決勝の舞台に立つことです」
テコンドーの世界選手権は2年に1度開催され、山田は3大会連続で出場している。結果は2013年ベスト8、'15年と'17年はどちらもベスト16止まり。山田にとって世界の壁は何だったのか。小池隆仁ナショナルコーチは「精神的にも肉体的にも脆さが目立っていた」と振り返る。
「前回の世界選手権3回戦で当たった中国の選手は非常に長身だったので、山田は最後まで自分のタイミングや距離に入ることができなかった。カムチョン(減点)を多くとられたこともその原因のひとつだったと思います」
転機は'18年アジア大会の銅メダル。
それから2年、小池ナショナルコーチは「現在の山田は前回世界選手権に出場した時とは別人のような選手に成長した」と目を細める。転機は昨年8月、インドネシアで行われたアジア大会で訪れた。初戦で一昨年の世界選手権銀メダリストを破るなどの活躍を見せ、銅メダルを獲得したのだ。
山田は「私にとっては(海外の)公式大会での初めてのメダル獲得だったので、すごくうれしい気持ちになりました」と思い返す。
「以前はメダルを獲ることを目標にしていた時期もあったけど、あれからメダルを獲ることは当たり前と思えるようになりました」
山田の持ち味は“蹴りのボクシング”と形容されるテコンドーを具現化するようなスピーディーな蹴りの連打だ。中段蹴りを打ってから蹴り足を戻すことなく上段蹴りを放つなど朝飯前。先の全日本選手権決勝では開始わずか1秒でポイントを奪い、場内を大きくどよめかせた。
結局、59-5という大差で優勝したが、山田は笑顔とともに「優勝は絶対だと思っていたので、(圧勝も)当たり前」といってのけた。それが全く厭味に聞こえなかったのは、少なくとも国内では彼女の実力が突出していたからだろう。