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田中浩康と選手が語る小宮山采配。
早大野球部としての責任と褒め方。
posted2019/05/10 10:30
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph by
Kyodo News
早大野球部の加藤雅樹キャプテン(4年)は言い訳をしなかった。
「明大戦の負けは単純にこちらの力が足りなかっただけです」
東京六大学春のリーグ戦、小宮山悟新監督で挑んだ早大は東大に連勝したが明大に連敗。勝ち点を落としてから数日後、言葉では力負けを認めたが、何か明るい兆しを見つけたのか、加藤の表情に柔らかさがあった。
優勝するにはもう負けは許されない状況だが、新生早稲田野球に変革を感じさせる場面があった。
4月28日、対明大2回戦の8回表。明大が2死一、二塁のチャンスを迎える。1点をリードしていた早大としては逃げ切りたいこの場面で、小宮山監督のチームマネジメントの一端が見える。
この時点で、5回から先発をリリーフした左腕の今西拓弥(3年)が2アウトを取っていた。明大4番の右打者・北本一樹(4年)のところで右投手の柴田迅(3年)にスイッチした。前日の1回戦で1イニングを三者凡退で抑えた投手だ。
しかし柴田は三塁強襲ヒットに続き、ピッチャーゴロを取り損ねて最大のピンチを迎える。
ワンアウトを取ればいい局面だったが、「不規則な当たりのピッチャーゴロでした。気持ちの焦りがあったかもしれません」と柴田は言う。マウンドでの緊張はマックスに達していたと言ってもいい。今シーズン、抑えに固定した徳山壮磨(2年)に代えてもいいシーンだった。
ピンチでもマウンドに行かない。
それでも小宮山監督は動かなかった。マウンドに行って一声、かけることすらなかった。
「去年だったら高橋(広・前監督)さんか道方(康友・前投手コーチ)さんがマウンドに行くケースですね。私も間を取りましょうか、と言いました」と佐藤孝治助監督が言う。
柴田が振り返る。
「そういえば、監督は来なかったですね。キャッチャーの小藤(翼・4年)さんは北本さんにヒットを打たれたところで来たと思いますが、ベンチからは声もかかってないです。前日の1回戦の後のバッテリーミーティングだったかな、監督はタイムを取ってマウンドに来ない方なので、試合の中では間は自分たちで取ろう、と言っていたんです。落ち着かせることは自分たちでやっていこうと。あの時はセカンド牽制を入れました」
監督はマウンドに来ない、という共通認識があったのだ。