ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
若き前園に楢崎、レオナルドに相馬。
横浜Fvs.鹿島の激闘を覚えているか。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/06 10:00
ジーニョ、前園真聖、ジョルジーニョ、本田泰人……横浜Fと鹿島が見せたタレント集団の戦いは激しかった。
ジーニョが決めたスーパーFK。
そして、このファウルによって転がり込んだ直接FKのチャンスを、氷のように冷静なジーニョがしたたかにモノにする。左足から放たれたボールは、鹿島の人壁を巻くようにゴール右上隅に吸い込まれていった。
狙った場所といい、球筋といい、球速といい、申し分のないシロモノ。その左足はまるで名刀のごとき切れ味だった。これもまた、セレソンを代表する勇士の成せる業か。
1-1。これでゲームは振り出しに戻る。それ以降も互いにチャンスの山を築いたが、ついにスコアは動かなかった。横浜Fの楢崎正剛、鹿島の佐藤洋平という両軍の守護神にメインキャストが入れ替わったからだ。
まず99分、佐藤がジーニョのシュートを阻むと、113分には楢崎がレオナルドのシュートをファインセーブで切り抜ける。当時のJリーグは90分を終えた時点でタイスコアの場合、延長戦(15分ハーフ)でケリをつけるVゴール方式を採用。一方のゴールが決まった時点でゲームが打ち切られる。いわゆる、サドンデス(突然死)方式だ。
PK戦でヒーローとなった楢崎。
しかし、延長戦を終えても1-1のまま。ついにPK戦で勝敗を決することになった。ここでも互いに譲らない。5人目まですべてのキッカーがネットを揺らし、運命の6人目を迎えることになった。
先攻は鹿島、キッカーは左サイドバックの相馬直樹だ。ここでアトランタ世代の楢崎が渾身のPKストップを演じてみせる。左へ体を投げ出しながら、やや甘いコースに飛んだボールを両手でまんまと弾きだした。
「マザロッピ(GKコーチ)から『キッカーの軸足を見て跳べ』と言われていた」
試合後、楢崎が種を明かす。そして、横浜Fの6人目のキッカーとなった服部浩紀がきっちりとゴール左隅に蹴り込んで、120分間に及ぶ激闘にピリオドを打った。
印象的だったのは試合後に語った両監督の言葉である。勝ったオタシリオが「実に感動的な試合」とストレートに振り返れば、敗れたジョアン・カルロスも「プロの名に恥じない試合」と胸を張った。