セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
史上初のCLへ、武器は侠気と根性。
トリノは激戦のセリエを勝ち抜くか。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2019/04/26 10:30
1906年に創設され、1942年から1949年にかけてセリエAを5連覇。ただ1949年、チームを乗せた飛行機が墜落し、ほぼ全員が死亡した。
ファンは結果より侠気を重んじる。
トリノの地元紙『トゥットスポルト』は、4月中旬の紙面で開幕戦からの誤審記録を列挙し、本来であればトリノへ与えられるべきだったPKは13本に上ると主張した。
「誤審によってトリノは勝点10以上を損している。もし来季CLかELに出られなければ、それは審判団のせいだ」と9人のレフェリーを名指しで弾劾しながら、トリノ応援キャンペーンを展開。地元クラブ贔屓もここまで徹底されているとかえって清々しい。
トリノは伝統的にカルチョのオールドスクール的なところがあるクラブで、ファンも結果より侠気を重んじる独特の土壌を持っている。
荒れたカリアリ戦では、DFデシルベストリが競り合いで鼻骨を骨折し途中交代する羽目になったが、負傷から2日後にはフェイスガードをつけて早速練習に復帰し、“それでこそトーロの選手だ”と、見守るファンからやんやの喝采を浴びた。
同じ町にある白黒ストライプのクラブが国際化やマネタイズでどれだけ素晴らしい成功を収めようが、グラナータ(ざくろの実)色を身に纏う男たちは決して格下と侮られることがあってはならない。根性やガッツで負けることは絶対に許されない。
この気風があるからこそ、人情肌の指導者マッツァーリは受け入れられたし、選手たちもその声に耳を傾ける。
「ビッグクラブにとってうちは厄介な存在だろう。クラブ予算も売上高も、選手たちの給料の額でも彼らには敵わない。だが、(CL出場権をかけた戦いに)我々には何の縛りも恐れもない。何でも来い、という精神状態で臨める。それが強みだ」
ユーベとの決戦とスペルガの悲劇。
これから始まるラストスパートでは、注目カードが目白押しだ。34節では4位ミランと、最終38節では8位ラツィオと雌雄を決する直接対決がある。
何より、5月3日の35節では、仇敵ユベントスがトリノ・ダービーで待ち受けている。
もともとのカレンダーでは、ユベントスがCL準決勝進出した場合を想定して、ダービーは「5月4日」とされていた。
しかし、トリノにとってその日付は70年前に航空機事故で主力を失った“スペルガの悲劇”が起こった日であり、喪に服すべき大事な時節にプレーすることはできないと彼らは4日の試合開催を断固拒否した。ユーベはアヤックスに敗れ、1日繰り上げ開催を望んだトリノの要求は認められた。