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ロシア女子に贈る「マラディエッツ」。
重鎮タラソワ、インタビューの裏側。
posted2019/04/24 08:00
text by
栗田智Satoshi Kurita
photograph by
Olga Skorupskaya
ロシアフィギュアスケート界の重鎮タチアナ・タラソワへの取材は、3月の世界選手権の前後に行われた。
普段は国内外で開催される大会やイベントで忙しく飛び回っているのだが、ちょうど週末はモスクワ郊外にあるダーチャ(セカンドハウスや別荘のようなところ)で過ごしているとのことで、近隣のカフェで話を聞くことになった。
中心部から西へ車で1時間。指定の場所はルブリョーボ・ウスペンスコエ・ショッセという有名な街道沿いにあった。政府高官や実業家など社会的地位の高い者が邸宅を構える超高級エリアだ。近くにプーチン大統領の公邸もある。
カフェは自然派食材を謳った明るくて感じのいい店だが、駐車場にはベントレーやマイバッハなどの高級車がずらりと並んでいる。店内を見渡すと野党の有力議員で、先の大統領選にも出馬したグリゴリー・ヤブリンスキーが店の一角に陣取っている。土地柄、客層はやんごとない人物ばかりのようだ。
「で、あなたは何を聞きたいのかしら」
タラソワは約束の時間ぴったりに現れた。個室に迎え入れる際、毛皮のコートをお預かりする(ロシアではマナー上、女性のコートを脱がせたり着せたりするのは男性の役目なので)。「これがかの有名なタラソワ先生の毛皮のコートか……」と感慨深いものがあり、ハンガーにかける手が震える。そっと手の甲でなぜて、感触を確かめてみる。
「で、あなたは何を聞きたいのかしら」
背後から尋ねられ、はっと我に帰る。そうだ、毛皮のコートについて聞きにきたわけではなかった。どこのブランドなのかとか、何着持っているのかとか。すでに席に着いて雑誌のバックナンバーをめくっている彼女に、取材の趣旨をあらためて説明する。多士済々、さまざまな選手がひしめき合うロシア女子の現状をどう見ているのか、今シーズンを総括してほしいと。