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<イチロー引退スクープ 記者が見た>
決断を呼んだ「空白の10カ月」。

posted2019/03/29 12:30

 
<イチロー引退スクープ 記者が見た>決断を呼んだ「空白の10カ月」。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

3月21日、アスレチックス戦8回裏に交代を告げられ、最後の瞬間を迎える。総立ちの大観衆からは大きな拍手が贈られた。

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小西慶三

小西慶三Kezo Konishi

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Naoya Sanuki

「イチロー、一線を退く意向を球団に伝える」  その速報はMLB開幕第2戦の最中に流れた。  昨年5月、マリナーズ会長付特別補佐に就任後、実戦から遠ざかること10カ月。孤高のヒットメーカーはいかなる心境で決断を下しラストゲームに臨んだのか。

 いつもの場所に「51 ICHIRO」のネームプレートはなかった。3月23日のマリナーズクラブハウスは東京から戻り、練習を再開した選手たちの活気であふれていた。だがそこだけは無機質なハンガーが数本ぶら下がったままだ。無造作に重ねられた段ボールの空箱が、主のいないロッカーを寂しく演出していた。

 そういえば、用具の置かれていない彼のロッカーをもう何年も見ていない。オフの間もイチローだけがここで自主トレしていたから、そこには彼の息づかいを感じさせる何かが必ずあった。マイアミでもそうだったし、こっそり取材した晩秋のヤンキースタジアムでもそうだった。この虚無感、空白感がこれから小さくなることはないだろう。むしろ今後は少しずつ、無限に広がっていくのではないか。突然現れた巨大な風穴を眺めるような気持ちで、しばらくロッカー前に立ちつくした。

 決断を下したのはいつだったのか。本当にもうこれで終わりなのか。そんなことを漠然と考えながら3月21日のゲームを観戦した。

「21日のアスレチックス戦を最後に……」と続く共同通信第一報が流れたのは午後7時だった。その速報を各加盟社ニュースサイトが転電しはじめたのが7時10分過ぎだ。以降、自分と同じ思いでイチローの打席を見つめた人たちは多かったのではないか。

 一塁方向への強いファウルは最後の打席まで見られた。彼のバッティングが良くない状態であることを示す現象だ。右腰の回転がわずかに早く、下半身の力がうまくバットに伝わっていかない。芯でとらえた打球はほとんどが一塁線を割ってしまう一方で、センター方向から左への鋭い当たりが消える。外角への緩い球にもバットがついていかず、空振りが極端に多くなる……。

この記事は雑誌『Number』の掲載記事です。
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