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敵、仲間、そして野球人として。
MLBが示したイチローへの敬意。
posted2019/03/31 11:30
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph by
Getty Images
イチロー引退の一報は、日本だけでなく、一瞬にして全米中をも駆け抜けた。
2012年7月、衝撃のトレードでイチロー移籍を実現させたヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは、他球団に所属する選手に対して、異例のコメントを発表した。
「イチローはこれまで世界が目にした中で、最高の野球選手のひとり。彼はほぼ人生のすべてを野球と結婚して過ごしてきたが、その関係は素晴らしいものだった。我々は彼を元所属選手のひとりだと呼べる幸運に恵まれた。その驚嘆すべき実績をたたえたい」
将来、殿堂入りが確実視されるバットマンに対し、最上級の敬意を表した。
名将マドンとイチローの約束。
メジャー屈指の名将として知られるカブスのジョー・マドン監督は、懐かしそうに振り返った。エンゼルスのベンチコーチを務めていた'01年、ライバルチームの1番打者として、イチローは鮮烈なデビューを飾った。その類い希な資質は、頭脳派マドンのコンピューターを攪乱させた。
「イチローは野手のいないところに打つ能力がある。エンゼルス時代、いろいろな守備隊形を仕掛けてみた。三遊間、一、二塁間を狭めてみたりしたが、簡単にレフト前へ弾き返された。本当はパワーもあるし、それは彼も分かっているはずだ。打撃練習は本当にすごいからね。それでも安打を打ち続けるのだからすばらしい」
'09年、セントルイスで行われたオールスターでア・リーグの監督を務めたマドン監督(当時レイズ)は、試合前日、イタリアンレストランで偶然、イチローに出会った。ワイン好きのマドン監督が、赤ワインのボトルを1本差し入れした際、「明日の初球、ホームランを打ってくれ」と依頼したところ、イチローは笑顔で快諾。実際に本塁打にはならなかったものの、右翼線へ強烈なファウルを放ち、約束を果たそうとしたという。
その後、イチローからお礼のサイン入りバットが届けられたこともあり、印象深い思い出として残っていると言う。
「イチローを1番打者として起用し、指揮できたことはとても幸運だった」