野球善哉BACK NUMBER
吉川峻平はなぜMLBへ直行したか。
「10年後をイメージして決断した」
posted2019/03/12 11:15
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
188センチ80キロの体躯はマイナーリーガーの中にあっても、華奢に見えた。
アメリカ、アリゾナ州、スコッツデール。Dバックスなどがキャンプを張るソルト・リバー・フィールズにひっそりとプロのキャリアをスタートさせている日本人ピッチャーがいる。
「昨年の9月に教育リーグとミニキャンプに参加していたので、日米の練習法の違いに驚きはありません。短い練習時間の中でやることやって、自分で考えてやる毎日を過ごしています」
吉川峻平、24歳。昨年秋、社会人野球のパナソニックに所属しながらDバックスと契約交渉を行っていたことが発覚し、騒動となった。通常ならば昨年のドラフトを騒がせる逸材だったが、日本野球連盟の選手登録から除名されてでもメジャーに挑戦する事を望み、海を渡った。
自分は気にしないが、会社批判は苦しかった。
田澤純一を筆頭に、現実問題として日本のプロ野球を経ずにメジャーに挑戦しようとする人間への風当たりはきつい。実現しなかったケースでは、菊池雄星や大谷翔平も同じ道を目指したが、その際も必ず批判の声が多くあがった。
吉川も例に漏れず、世間からのバッシングを受けた。
「自分は何を言われてもしょうがないと思っていました。球が遅いのにアメリカで通用するはずがないとか、技術がないのにメジャーに行ってどうするんだとか言われましたけど、そういうのは気にしていなかったです。
それよりも、僕が所属していたパナソニックへの批判があったのは申し訳ない気持ちでした。パナの商品は買わないという批判も聞きましたから。いろんな方に迷惑をかけた申し訳なさは、これからも無くならないのではないかと思います」
確かに、日本野球連盟所属の選手でありながら、メジャーリーグ球団との契約を結んだ事実は単純に褒められる話ではない。「もっとやり方があったのではないか」という声もある。
高校卒業時点でメジャー球団と契約を結ぼうと思えば可能な状況ながら、日米球団と面談を行うという丁寧な手続きを踏もうとした菊池の件でさえ、世間は彼やその周辺を悪者扱いした。世界への進出を夢見て、若いアスリートが扉を開こうとする。その悲壮な覚悟は応援されてしかるべきだ。