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小平奈緒、世界新へのおまじない。
てるてる坊主を逆さに吊るす理由。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2019/03/03 11:00
表彰台に立つ小平奈緒。賞のプレゼンターであり、かつて指導を受けたマリアンヌ・ティメルから祝福を受け涙を見せる瞬間も。
敗れたからこそ分かったこと。
レース内容を振り返ると、小平には第2カーブで膨らむという明らかなミスがあっての2位だったが、'16年10月から2年以上負け知らずだっただけに、精神的な影響をレースに及ぼさずにいられるかは未知数だった。
しかし、今の小平には確かな自尊心が備わっていた。連勝街道を突き進むにつれ、「“おめでとう”と言われていたのが段々と言われなくなって、すごく寂しいと感じていた」(小平)が、世界距離別選手権で2位になると、周囲からの反応が増えた。
「負けたとき、ずっと競い合ってきた選手や、過去に一緒にスケートをやってきた仲間に『チャンピオンだということを忘れてはいけないよ』と言ってもらった。周りの選手も私を見てくれていたのだと知ることができて、それがすごくうれしかった」
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敗れたからこそ分かったことがあったのだ。
五輪チャンピオンという言葉が自信に。
昨シーズン、平昌五輪で金メダルに輝いたことで、レース会場で五輪チャンピオンとして紹介されるようになったことも気持ちを強める要因になっている。
「スタートラインについたときに『ナオ・コダイラ、オリンピックチャンピオン』と言われると、『オリンピックチャンピオン』という言葉がすごく自信になって、プラスに働いていると感じます。これは悪くないなと思いました」
2年ぶりの敗戦後の最初のレースが、'14年春から'16年春までの2シーズンを過ごしたオランダであったことももちろん後押しになった。こうして世界スプリント選手権の頂点に立ち、さらに気づいたことがある。
「今までの連勝は、決して当たり前のことではない。どんなに小さな大会でも大きな大会でも、勝つことは当たり前ではない。あらためてそう思いました。そこに向けて自分がどんなことをしてきたか、どんな気持ちでそのレースに臨んだか。
ただ勝ちたいからやってきたのではなく、自分の実力を向上させていくという思いで今まできたからこそ、(勝ち続けることが)できていた。そう考え、今後も(同じように)やっていけばいいと思いました」