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<蘇ったマーメイド>
シンクロナイズドスイミング日本代表「全部、泳いでこい」 

text by

松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

PROFILE

photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2016/09/02 08:00

<蘇ったマーメイド>シンクロナイズドスイミング日本代表「全部、泳いでこい」<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

箱山愛香、乾友紀子、丸茂圭衣、三井梨紗子、中牧佳南、中村麻衣、小俣夏乃、吉田胡桃、林愛子。チームでのメダルは'04年アテネ以来。

会場には大音量の「ジャポン」コールが響いていた。鬼コーチの指導に食らいついた地獄の日々。切れ味鋭い演技は、過酷な練習の賜物だった。8年ぶりに“お家芸”でのメダル獲得となった。

 チーム決勝の本番直前、“鬼”はこう言って教え子たちをプールに送り出した。

「私にとっては9回目のオリンピックだけど、このチームが最も中身の濃い、ハードな練習をしてきた。長さだけでなく、過酷な練習をさせてきた。ロシアのことは知らないけども、他のどの国にも絶対に負けない。だから、今からたった1回の演技、できないはずがない。どんなことが起こってもそれに耐えられるだけのハードで長い練習をやってきたんだから、終わった後にやり残しがあるような演技だけはするな。この1回で全部、泳いでこい!」

 人間、誰だってできれば他者に嫌われたくはない。ところが井村雅代監督は、躊躇なく“鬼”になる。合宿では朝の8時から夜11時までプールサイドに立ち続け、リオ入りしてからも、3度はカミナリを落とした。デュエットで乾友紀子と三井梨紗子が銅メダルを勝ち取ったにもかかわらず、一向に闘志が見えない選手たちに怒り、チーム決勝前最後のリフト練習を中止させたほどだ。

「選手を褒めて伸ばす指導だとか、それはただの無責任。あの子たちにメダルを獲らせる。それが私の責任の取り方です。めちゃくちゃ強引に指導しました。あの子たちには合わないやり方かもしれないけど、こうしなければメダルのところには行けないんだよという意味で、強引に引っ張りました。よくついてきたと思いますね」

 戦略的なスパルタだった。長身選手のそろうロシアや中国に対して、足の長さや見た目の優雅さでは敵わない。ならば、動きのキレや同調性、連続性で勝負する。フリールーティンのラストにも、身体的負荷のかかる連続の足技を20秒以上も組み込んだ。

「私は自分たちを認めることから物事を考える。足が短くて体が小さいことを認めて、その選手が勝つには、丈夫で長持ちしかないと思ったんです。足が長くても最後にペラペラとなってしまうよりも、短いけども最後までカチッとスポーツ的に迫ってくるほうがいいかなと思って、ああいう振り付けを考えました」

この記事は雑誌『Number』の掲載記事です。
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